専門家コラム「成功に導くIT投資策定の勧め」(2016年5月)
中堅・中小の大部分の企業がIT投資で成果を得られていません。多額の費用を投資したのに、リターンが少なければ成功とは言えませんよね。そこで「目的を明確にすることで、IT投資を成功させるポイント」をご紹介します。
私は企業内診断士で以下のセンターに勤務しています。今回、当センターが提供しているサービスの一部を紹介させていただき、自社のシステム開発・導入の際の参考にして頂ければ幸いです。
・勤務先 NECネクサソリューションズ株式会社(NEXS)
・目指す姿 中堅市場のリーディングカンパニー
(中堅市場のお客様のビジネスに貢献する価値を提供しつづけ、お客様からも、
業界、社会からも“さすが”と認知していただけている会社を目指しています。)
・所属先 イノベーションサポートセンター(ISC)
(ITと経営にかかわる“よろず相談”を経験豊富なベテラン社員が承っています。)
・今回紹介するサービス
システム企画策定支援
期待に応えられるIT投資(システム開発・導入)に向けた企画を策定、システム稼働後の正しい評価を実施し、導入成果(成功率)を検証、そしてこれらの成功を導くPDCAサイクルを定着させるマネジメントの強化を支援します。
・用語説明
IT投資:企業の経営・事業戦略の課題解決に結びつくシステム開発や導入、機器展開のこと。
一般的にシステムの開発・導入の成功ポイントは、「システムを導入した企業から見て、Q(品質)・C(コスト)・D(納期)が所期の期待通りになっているか」です。
しかし本当にそうでしょうか。Q(プログラムバグやシステム障害が無)・C(コストオーバー無)・D(納期遅れ無)は期待通りだったとしても、対象システムは自社の経営・事業戦略の課題解決に結びつくようになっているのでしょうか。Q・C・Dも重要ですが、経営戦略実現を担うシステムになっていないと投資効果が計れず、結果的にシステム開発・導入の成果がうやむやになってしまします。システム開発・導入はスケジュール通りが当然です。それより最も重要なのは、IT投資が経営・事業戦略と整合性が取れ、事業拡大に貢献するシステムになっているかです。
ではどうすれば、IT投資と経営・事業戦略が整合を取れるようになるのでしょうか。
主要なポイントは以下の5点です。
(1)システム化の目的を明確にする。
(2)システム化の対象範囲を明確にする。
(3)システム化による投資効果を明確にする。
(4)システム化の内容を組織内で合意形成する。
(5)目的・対象範囲・投資効果・組織合意形成を書面化し共有する。
それでは具体的に各ポイントを説明いたします。
(1)システム化の目的を明確にする。
経営・事業戦略とIT投資との整合を図るため、
どの部分の戦略課題を解決するのかの目的を明確にします。
また目的にも優先順位をつけ、
1)必ず達成しなければならない課題解決、
2)その次に達成しなければならない課題解決、
3)前述の課題を解決しないと解決できない課題解決、
等を明確にします。
この場合は課題解決の因果関係図(バランススコアカードの戦略マップのような図)を作成すると理解しやすくなります。
また目的の明確化により、目的が実現できれば現状と何が変わり、どのような利点が得られ、どのような問題点や不要点が発生するのかも明確になります。
(2)システム化の対象範囲を明確にする。
対象とする戦略規模、例えば、業務(販売、仕入、製造、在庫、物流、)、対象者(お客様、お客様のお客様)、範囲(直販、Web販売、国内、グルーバル、性別、年齢別)、部門(本社、本部、拠点)、等を明確に定義し、IT投資に関わるメンバーを確定します。
(3)システム化による投資効果を明確にする。
システム稼働後に効果を測定できるように定量的な数値目標を設定します。
数値目標を設定する際は因果関係も明確にします。
たとえば目標値に営業利益率:5%達成と設定した場合、現状の営業利益率や売上利益率、販管費比率を把握し、どの部分を重点的に改善し成果を上げるようにするのか。そのためには、IT投資だけではなく、非IT部分でどのような工夫をしなければならないかも明
確にしましょう。
また投資効果は、プラスの効果とマイナスの効果に分けて設定します。
プラスの効果 :売上高**アップ、主要顧客**社増加、営業利益率**改善、等
マイナスの効果:残業時間**削減、不良在庫**千円削減、オペミス**件削減、等
(4)システム化の内容を組織内で合意形成する。
前述の投資効果はシステムを導入してから決めるのではなく、必ず開発着手・導入前の段階で明確にし、効果達成のために組織内の関係者と役割を明確にするようにしましょう。
特に部門別にシステム開発・導入のためのスケジュールやリソース(プロセス確認、テスト対応)確保、要求仕様の確認、等を明確にしておく必要があります。
(5)目的・対象範囲・投資効果・組織合意形成を書面化し共有する。
目的・対象範囲・投資効果・組織合意形成を確定(企画策定)した後、関係者が自由に閲覧できるように書面化し、バイブルとして共有できるようにします。
バイブル化を行うことにより、誰もがシステム開発の原点に立ち返ることが出来、今後新たに発見される問題点や課題に対して、どのように解決すべきか、また新しい課題の優先順位を決める際に所期の目的に合致した、ブレない判断が可能となります。
これらのポイントを踏まえシステム化の目的を明確にし、IT投資と経営・事業戦略の整合を行うようにしましょう。目的が明確であれば、以降のシステム企画の策定は容易になります。企画策定は自社でタスクフォースを構築し行うのも可能ですし、我々診断士に声掛けして頂いても良いと思います。目的さえ明確であれば、システム開発・導入した後の成果も容易に測定でき、成功の度合いが明確になります。またITベンダーにシステム開発を依頼する際は、システム化の目的・成果を実現できることを条件に発注することも可能です。その際はシステム化の目的を丁寧に説明、役割分担を明確にした上で協力してシステム開発・導入を行い、「Win・Winの関係を構築」するようにしましょう。
それが出来れば、自社のIT投資は必ず成功に導けると思います。
今回の参考資料
NECネクサソリューションズ 技術レポート 2015年6月第3号
シニアエキスパート 持田 敏之著(IT投資の成功確率をいかに上げるか?)
■石川 秀朝(いしかわ ひでとも)
中小企業診断士 ITコーディネータ 事業再生アドバイザー 第一種衛生管理者