専門家コラム「再考・高年齢者雇用について」(2016年5月)
再考・高年齢者雇用について
改正高年齢者雇用安定法が施行されて3年経過し、厚生年金支給開始年齢が男性の場合62歳に今年の4月から引き上げられています。また今回、高齢・障害・求職者雇用支援機構より「高年齢者雇用アドバイザー」を受任したこともあり、改めて高年齢者雇用について再考してみたいと思います。
1.今後の高年齢者雇用の現状と課題
【高年齢者雇用の実態】
平成27年度「高年齢者の雇用状況」集計結果では、65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施している企業の割合は99.2%とほぼ達成していることがわかりました。また、希望者全員が65歳以上まで働ける企業は72.5%、70歳以上まで働ける企業の割合は20.1%となっています。定年到達者に占める継続雇用者の割合は、過去1年間の60歳定年企業における定年到達者約35万人のうち、定年後に継続雇用された者の割合は82.1%、継続雇用を希望しない定年退職者の割合は17.7%、継続雇用を希望したが継続雇用されなかった者の割合は0.2%ということでした。
【雇用確保措置の実態】
一方で、雇用確保措置の内訳では、継続雇用制度の導入が81.7%、定年の引き上げが15.7%、定年制の廃止が2.6%ということで、現在は継続雇用制度が主流といえます。この4月より男性の厚生年金支給開始年齢が62歳になり、今後も3年毎に1年づつ支給開始年齢があがっていき、2025年には65歳まで引きあがります。やはり「年金と雇用」の接続問題が最重要課題だと考えられます。
【雇用と年金との接続問題】
国は国民の長寿化と相俟って60歳~65歳の年金の空白化に対して今までの年金相当分は働くことでその金額を確保せよという施策が現在進行しています。したがって、ある程度実態ができあがったときに定年は65歳を下回ってはならない、という時代が今後到来することが予想されます。そのような視点で今後の制度を改めて考えなければならないと思います。まず新たな賃金制度の構築が必要となります。既に先行事例で大企業でも65歳定年制を打ち出している企業も現れています。
現在60歳台前半の厚生年金の空白化が始まって3年が経とうとしています。継続雇用制度も始まってそれほど経過していないので、継続雇用制度の賃金制度も一律であったり、好事例も少ないと思われます。これからは高年齢者の働き甲斐にも考慮した制度の工夫が必要です。年金接続という視点だけではなく、人生における職業生活後半のあるべき姿から多様な働き方を検討すべきと考えます。
【70歳まで働ける社会の実現】
国は年金支給開始年齢が完全に65歳となる2025年を目途に「生涯現役社会の実現」を念頭に置き、「70歳まで働ける企業の実現」に向け施策を講じようとしています。
個人的にも生涯現役である人生を望んでいますが、日本の高齢者は就業意欲が高いという資料をよくみかけます。働けるうちはいつまでもが25.6%(生涯現役希望)、65歳位までが31.4%、70歳位までが20.9%、すなわち半分位は60歳台は働きたいといことです。
一方で、60歳以降は仕事をしたくないというのも11.7%あります。国民すべてが生涯現役を望んでいるわけではないということです。そういった観点からは、多様な価値観のなかからその生き方を選べるような提案をすべきと思います。加齢が進むと個々人の体力、能力、気力にはかなりばらつきがでてきます。また背負っている人生も様々ですから一律の働き方ではあまり意味がないように思います。
【将来に向けての高年齢者雇用のあるべき姿】
急速に進む少子高齢化にある日本において、高年齢者の雇用はいかにあるべきかが有識者のあいだでも議論されています。寿命(健康寿命)の延び、人口構成の変化、ひいては年金財政問題による受給年齢の引き上げ予測等、一億総活躍社会においては高年齢者もその一翼を担わなければなりません。以下の項目に課題があるということを学びました。
(1)人事管理制度の整備
高年齢者雇用確保措置がとられてからまだそれほど経過していません。60歳以降の人事管理制度がまだ未整備です。第1段階として60~65歳までの人事管理制度の整備が喫緊の課題です。将来65歳定年制が定着した段階でつぎのステップとして65~70歳までの人事管理制度の整備が必要になってくると思われます。
(2)賃金・退職金制度の整備
現在継続雇用制度が主流では単年度という短期的な視点で運用されていますが、65歳定年制を見据え、長期的展望から賃金・退職金制度の整備が必要です。
(3)職場改善、職域開発に関すること
高年齢者が働きやすい職場環境の改善や、高年齢者が働きやすい職場の確保も必要になってきます。
(4)能力開発に関すること
年金が支給されるまでの腰掛的な職場ではなく、高年齢者のやりがいや企業に貢献できる役割を担うためにも不断の能力開発や研修を行うことも検討すべきです。
(5)健康管理に関すること
高年齢者が働くにあたって健康問題は大変重要であり、特段の配慮ができる制度の整備も必要になります。
2.高年齢者雇用アドバイザーに求められる役割
【高年齢者雇用アドバイザーの役割の変遷】
高年齢者雇用アドバイザー制度は昭和58年の定年延長アドバイザー制度創設に遡ります。当初は60歳定年の努力義務化から始まったようです。平成2年の65歳までの継続雇用の努力義務化、平成6年に60歳定年の義務化(平成10年施行)、平成12年の高年齢者雇用義務確保措置の努力義務化、平成15年の高年齢者雇用確保措置の義務化(平成18年施行)、平成24年の継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みを廃止(平成25年施行)、そして高年齢者雇用アドバイザーと70歳雇用支援アドバイザーの一元化がなされました。時代と共に高年齢者雇用アドバイザーの使命・役割もその性格が変わってきています。
【これから高年齢者雇用アドバイザーに求められる役割】
高年齢者雇用の問題は当事者だけの問題だと思われがちですが、実は「非」高年齢者の問題でもあります。恥ずかしながら自分自身も高齢になったときにどのように生きようか、なんてことはあまり考えてきませんでした。「非」高年齢者もいずれは高年齢者になります。自分自身が高齢になったときにはという議論は「非」高年齢者とも共有すべきと考えています。
【むすび】
このままの少子高齢化のペースでいくと西暦3000年には日本の人口が1000人になってしまうというショッキングな予測を最近みかけました。少子高齢化が続くと国が滅んでしまうリスクがあります。
ともあれ、高年齢者が人生最後まで活力を持続させ、生きがいを感じて世の中の一端を担える社会つくりに「高年齢者雇用アドバイザー」として微力ながら貢献していきたいと思っています。
■伊藤 孝一
【略歴】
中央支部 総務部所属 執行委員
中小企業診断士・1級販売士
特定社会保険労務士・高年齢者雇用アドバイザー・年金特別アドバイザー
【著書】
顧客情報活用の知恵(共著:同友館/2000年4月)
中小企業診断士1次試験重要事項総整理(共著:法学書院/2005年1月)
雇用形態別人事労務の手続きと書式・文例(共著:新日本法規出版/2013年1月)
月刊企業診断8月号「業績アップの人事労務」(共著:同友館/2013年8月)