専門家コラム「もっと営業に力を入れよう」(2016年4月)
1.はじめに
企業経営にとって営業活動は最も重要な業務の一つです。しかし、ほとんどの中小企業は人材不足から営業活動に力を入れることができていません。一方、大手企業の営業部門は質・量共に徹底した営業活動を行っています。現在は「ブラック企業」という呼称が市民権を得ており、さすがに「夜討ち朝駆け」ということもなくなりましたが、大手企業と中小企業の営業活動には雲泥の差があります。今回は、営業活動の必要性と、そのやり方について説明します。
2.なぜ、営業活動が必要か?
中小企業の社長に営業活動が必要な理由を問うと、怪訝な顔をしながらも、異口同音に「商品を売るため」という答えが返ってきます。しかし、「商品を売るためには営業活動が必要」であることを理解していても、「当社の売上が伸びないのは、充分な営業活動を行っていない」という事に気付いていないことが多いようです。そして、売上を増やすためには営業活動が必要ですが、売り上げが増えないのは、充分な営業活動を行っていないか、やり方が間違っていることがほとんどです。我々、中小企業診断士も資格を取得してスキルアップに勤しんでいても、毎日、朝から晩まで事務所にいたのでは全く仕事が来ません。
3.様々な営業活動および営業ツールについて
では、人材が乏しい中小企業において、どのような営業活動のやり方が考えられるか説明しましょう。
(1)自社の営業マンによる訪問営業
訪問営業は、最も伝統的で一般的な営業形態です。高度経済成長期やバブルの頃は、「夜討ち朝駆け」があたり前であり、夜の宴席や休日のゴルフ接待も頻繁に行われていました。しかし、現在はそんなことを行っていたら「ブラック企業」というありがたくない冠が付けられます。また長期に亘ったデフレの影響で、接待費も削られたままです。その結果、営業活動は「量」から「質」の方へ変化してきました。
体力まかせの量の営業から、質の営業へ転換するためには、営業マンのスキルアップを図る必要があります。そのためには、適切な教育が必要です。教育にはOJTとOff-JTがありますが、古い体質のベテラン営業マンから受けるOJTよりも、集合研修のようなOff-JTの方が効果がありそうです。しかし、集合研修や通信教育には費用が掛かるため、敬遠している社長さんもおられますが、「教育訓練給付制度」などの厚生労働省の制度を利用することにより、費用を軽減することも可能です。
次に、営業活動のターゲットを取引状況から考えてみましょう。
上記の場合、一般的にはAやBへの訪問頻度が高いのではないでしょうか。しかし、既に取引があるため、さらなる取引高の積み上げはあまり期待できません。また、Dの取引先を開拓すると効果は大きいものの、成約までの苦労は計り知れません。よく若いサラリーマンが、業務日誌を作成するためか、ビルの前で入居企業名を手帳に書き留めている風景に出くわしますが、これは会社がDの開拓を求めすぎた結果と言えます。
そこで、企業にとって一番良いのは、Cとの再契約です。再訪はしづらいかもしれませんが、以下のようなメリットがあります。
(1) 取扱商品や担当営業マンが悪かったなど、取引打ち切りの原因がわかり、人的な問題なら営業マンを変えることによりうまくいくこともあります。
(2) 企業情報や取引履歴がデータベース化されていれば、営業マンが変わっていても、情報収集など無駄な努力をしなくてすみます。
(3) 営業マンが同じ人であれば、過去の営業活動の至らなかった点を振り返ることにより、スキルアップにつながります。
(2)他社の営業マンによる訪問営業
他社の営業マンを利用する方法としては、代理店や営業代行と契約する方法があります。営業代行は米国で発達した制度で古くから実績がありますが、ようやく日本においても一般的になってきました。個人で対応している人と法人が対応している場合があり、契約形態も多様です。従って、営業代行を利用する場合は、契約内容を吟味して、当社に合った方法を選ぶことが重要です。
(3)Webサイトによる営業
Webサイトでの営業活動は状況によっては効果的です。特に、飲食業においてはWebサイトの開設は必須になっています。また、小売業にとってWebサイトの開設は、ネット通販にも繋がり、販売方法の多様化が期待できます。
ただし、人による営業がプッシュ戦略であるのに対して、Webはプル戦略であり、自社サイトへ誘導することができなければ、効果はほとんど期待できないため、戦略的な工夫が必要です。
(1) 動画の導入や日々更新はSEO対策上欠かせません。日々更新することは煩わしいと思われるかもしれませんが、毎日天気だけを更新している企業もあります。これでもOKです。
(2) ネット通販を行っている場合は、取扱商品の包装紙にURLを入れることにより、自社サイトへ誘導することが可能になります。
(3) 製造業を営んでいる場合は、コスト増になりますが、マッチングサイトに登録することにより、新たな取引先を開拓することが可能になります。具体的なマッチングサイトの紹介は控えますが、機械製造や食品製造など、各業種別のサイトがあり、効果を上げている企業もあります。
(4) Eメールは、取引実績があれば有効なツールですが、取引実績が無い企業へのメEール送信は、迷惑メール扱いされるため逆効果です。皆さんも知らない人や企業からのEメールはほとんど見ていないのではないでしょうか。従って、Eメールの送信は、既存の取引先への新商品の紹介や、タイムリーな情報提供に留めましょう。
なお、Webサイトの作成については、「小規模事業者持続化補助金」(28年5月13日応募締切)など、各種補助金が用意されていますので、比較的安価に構築することが可能になっています。
(4)ダイレクトメールによる営業
ダイレクトメールだけだと、あまり効果は期待できませんが、電話や訪問営業との併用により、効果を上げることができます。
「iタウンページ」では、業種や地域を絞った企業検索サービスを無料で提供しているので、ターゲット企業へのダイレクトメールや電話および訪問営業に活用することができます。
以上のように見てくると、自社の営業マンの営業活動以外にも、様々な方法が考えられるため、人材不足の企業にとっても、効率的な「セールス」を行うことが可能になっています。
■飯野 純夫
中小企業診断士、証券アナリスト、産業カウンセラー