専門家コラム「2025年度の人事関連法改正」(2024年11月)
はじめに
働き方改革が進む日本経済において「2024年問題」が大きな話題になりました。運用業などで労働時間の規制が強まり(正確には経過措置が終了し)、「これまで運べていた荷物が、これまでと同じ方法では運べなくなる」ことで物流の停滞や運用費の高騰が起きました。
2024年度後半から2025年度にかけても人事制度に関する法改正が予定されており、すべての企業で対応が必要となります。このコラムでは5つの法改正を取り上げ、どのような対応が必要か見ていきます。
1.65歳までの高年齢者雇用確保措置(2025年3月経過措置終了)
高年齢者雇用確保法は、高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため。定年を65歳未満としている事業主に下記のいずれかの措置の実施を義務付けています。
① 65歳まで定年年齢を引き上げ
② 希望者全員を対象とする、65歳までの継続雇用制度を導入
③ 定年制の廃止
これらの措置のうち、②65歳までの継続雇用制度については、いきなりすべての希望者を対象とするのはなく、下記の経過措置が設定されていました。
期間 継続雇用制度対象者
2013年4月~2016年3月末 61歳以上
2016年4月~2019年3月末 62歳以上
2019年4月~2022年3月末 63歳以上
2022年4月~2025年3月末 64歳以上
2025年4月からは経過措置がなくなるため、希望するすべての従業員に対して65歳まで雇用を継続することが義務となります。前述した措置①~③のうちどれを選択するか、改めて検討が必要となります。
2.⾼年齢雇⽤継続給付の⾒直し(2025年4月施行)
2025年4月からは高年齢雇用継続給付金が縮小されることにも注意が必要です。
60歳を超えて就労し続けていながら賃金が60歳以前の75%未満である65歳での労働者に対し、雇用継続給付金が支給されます。その額は60歳以後の賃金の原則15%ですが、2025年4月からは原則10%まで引き下げられます。15%の給付金を前提にした賃金水準設定のままにしておくと、高年齢従業員の収入がダウンしてしまうため、賃金ひいては企業への不満につながるリスクがあります。
この給付金は将来的には廃止することも検討されているため、高年齢労働者が給付金に頼らず働き続けられる賃金水準の実現することが求められます。
加えて、職場環境の改善(バリアフリー等)、評価制度の見直しなど高年齢者労働者がモチベーションを保ちながら働き続けられる対策も検討が必要です。
3.障害者雇用促進法「障害者雇用の除外率の引き下げ」(2025年4月)
障害者雇用促進法では、障害者の職業の安定のため企業に対して法定雇用率の遵守を求めています。しかし障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種があり、除外率を定めて相当する人数だけ障害者の雇用義務を軽減しています。
除外率制度はノーマライゼーションの観点から2004年4月に廃止されましたが、経過措置として業種ごとに除外率を設定しました。除外率は廃止の方向で段階的に引き下げられることになっていて、2004年と2010年に続き、2025年4月にも一律10ポイント引き下げる予定です。
4.フリーランス・事業者間取引適正化等法(2024年11月施行)
従業員を雇っていない業務委託契約受注者(いわゆるフリーランス、法律では特定受託事業者と呼びます)を対象に、不利な扱いから保護するために制定されました。
この法律により、業務委託者は下記のような義務を負います。
・業務委託者は受注者に対して報酬額などを書面か電磁的方法で通知する
・業務委託者は成果物を受け取った日から60日以内に受注者へ報酬を支払う
・契約を中途解除などする場合、解除日の30日前までに予告する
また、特定受託事業者の不利益になる下記の扱いが禁止されます。
① 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
③ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤ 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること
違反した業務委託者は助言・指導などの行政処分の他、50万円以下の罰金を命じられる可能性があります。
5.健康保険法・厚生年金法の改正(2024年10月施行)
2024年10月より、社会保険の適用範囲が拡大しました。対象は、従業員数が51人以上であり週20時間以上の短時間労働者を雇う企業です。対象企業に勤務する週20時間以上の短時間労働者について、厚生年金保険・健康保険の加入が義務化されます。
該当する企業には日本年金機構から通知が届き、厚生年金保険被保険者取得資格届を提出する必要があります。本コラムが掲載される頃には手続きが終了していると思いますが、今後も上記対象に該当するようになった企業は注意が必要です。
<参考リンク>
65歳までの高年齢雇用確保措置
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1.html
高年齢雇用継続給付の見直し
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000744250.pdf
障害者雇用の除外率の引き下げ
https://www.mhlw.go.jp/content/001133551.pdf
フリーランス・事業者間取引適正化等法
https://www.mhlw.go.jp/content/001101551.pdf
健康保険法・厚生年金法の改正
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/koujirei/jigyonushi/taisho/
<略歴>
浜崎正和(はまさきまさかず)
東京都中小企業診断士協会中央支部 執行委員・総務部副部長
中小企業診断士、情報処理技術者プロジェクトマネージャ、SAP認定コンサルタント
IT業界で30年以上勤務、専門は組織・人事で10社以上の人事システムに携わった。