ここ5年ぐらいで、人を大切にする経営、人的資本経営という言葉をよく聞くようになりました。
私自身、30人程度の中小企業を経営して早6年が経過しようとしています。
もともと30年近くの歴史ある会社の事業を継承したため、ある程度の土台ができあがっていました。しかし、経営者としての就任当時は、従業員のモチベーションの低さや、個人商店の集まりという雰囲気は払拭できませんでした。
私は、従業員の成長がなければ、会社の成長はない、また、IT企業で、特定の商品を持たない会社にとっての最大の資産は、従業員という信念を持って経営を進めてきました。
そのプロセスが認められ、2024年3月に第14回日本でいちばん大切にしたい会社 審査委員会特別賞を受賞しました。これは進めてきた方向性が間違っていないということに確信を持たせていただきました。
従業員という資産をどう最大限に引き出すべきなのかを考えていたところ、それが実は、「人的資本経営」の考え方とほぼ一致していました。
一見して違うところは、人財の位置づけとして、私は人的資産という言い方をしていましたが、人的資本経営では、人財を「資本」として捉える人的資本と表現していました。

1.今まで掲載された「人を大切にする経営」と「人的資本経営」の記事
今まで中央支部のコラムに掲載された「人を大切にする経営」と「人的資本経営」に関する記事をピックアップしてみると、実はこんなにあり、中央支部の中小企業診断士は、それだけ注目しているということだと思います。記事はもしかすると、もっとあるかもしれません。
ぜひ再度読み直していただければと思います。
専門家コラム「理念経営の意義」(2016年12月)
専門家コラム「アドラー心理学で実践する!人を大切にする経営」(2016年9月)
専門家コラム「人を大切にする経営で自社に関わる人々を幸せにするには」(2018年8月)
グローバル・ウインド「コロナ禍を乗り越え“人を幸せにする経営”を広めよう」(2020年5月)
専門家コラム「新型コロナ後のさらなる発展に向けて『ティール組織』を考察する」(2020年5月)
専門家コラム「ティール組織で人を大切にする経営を実践するには」(2021年3月)
専門家コラム「VUCA時代に求められる戦略人事~人材活用の今とこれから」(2022年6月)
専門家コラム「人を大切する経営」(2023年4月)
専門家コラム「自社に関わる人を大切にしてウェルビーイング(Well-being)を高めるには」(2023年7月)

2.人的資本経営で必要な考え方と実践
「人を大切にする経営」と「人的資本経営」の詳細については、上記コラムでみなさん記事にしているので、参考にしていただきたいのですが、大切なのは、以下の3つの視点です。
1)経営戦略と人財戦略が連動しているかどうか
2)10年後のありたい姿において、経営戦略においても人財戦略においても、現時点でのギャップを把握しているか。つまり、可視化されているかどうか。
3)組織や個人が自ら行動できるような企業文化になっているかどうか

まずは、1つ目の「1)経営戦略と人財戦略が連動しているかどうか」と2つ目の「2」10年後のありたい姿と現時点でのギャップ」についてですが、私も以前、執筆させていただきましたが、経営品質のフレームワークをベースに実施しています。
参考までに、経営品質についての記事は以下となりますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
専門家コラム「経営品質って何?」(2017年11月)
グローバルウインド「世界で使われている経営品質プログラムのご紹介(その1)」(2023年3月)
グローバルウインド「世界で使われている経営品質プログラムのご紹介(その2経営デザイン認証)」(2023年4月)
グローバルウインド「世界で使われている経営品質プログラムのご紹介(その3 ISO9001との親和性)」(2023年5月)

まずは1つ目ですが、私は、経営戦略を考えるフレームワークとして、バランススコアカードを使っています。これは、人財(学習と成長)の視点、商品・サービス(内部プロセス)の視点、顧客の視点、財務の視点と、人財を含め、包括的に経営戦略と人財戦略を連動させることができるからです。

そして、2つ目ですが、経営品質では、ありたい姿にむけた将来から、現時点を見つめるバックキャスティングという手法で考えていきます。これは、現在の課題から将来に向かって話を進めるフォワードキャスティングの見方だと、どうしても現在の制約にとらわれて、なかなかありたい姿に辿り着きにくいからだと思っています。
お子さんを持つ方であれば、子供の将来(親が考える、こうなってほしい大人)を考えて、そのためにはどういう風に育てていかなければならないのかと考えていくのに近いと思っています。

最後に、「3)組織や個人が自ら行動できるような企業文化になっているかどうか」についてですが、私はやったことは、経営理念の見直しと、多様な働き方の実践です。
かつての経営理念については、従業員の90%以上があまり共感できなかったのですが、現在の経営理念は、8割近くの従業員が共感しました。参考までに、当社の経営理念のミッションは、「ICTで縁ある人たちを幸せに」です。
人を幸せにするための1つには、否定しないで、尊重することだと思っています。もちろん、コンプライアンス的に難しいことを除きます。
多様な価値観を認めることって本当に難しいことです。昔から今の若者は・・・ということを耳にしますが、これは自分との価値観とのギャップから生まれてくるものです。私も若いときは、新人類と呼ばれていました。
どんな時代になっても、年代、国、宗教など、文化・習慣が異なれば、価値観が異なってきます。それを受け入れること、そして、自分の価値観も同時に伝えて、相手にも受け入れてもらうことが大切です。
例えば、弊社では、フレックスタイム制度を導入して、朝早くから働く人は15時に上がるときもあります。しかし、上がりにくいという雰囲気は作っていません。休むときも、社員が協力して休める環境を作っています(2023年度の有給消化率は8割近くにまでになりました)。
人事制度も少しずつ改定していき、従業員はキャリアデザインシート(Will-Can-Mustシート)を作成することで自らの行動を考える仕組みを作りました。
企業文化は、すぐに変えることはできませんが、10年近くをかけてきた結果、変えることはできると確信できるようになりました。

より具体的に実践してきたことを記載すると、以下のとおりとなります。
1)経営理念の改定
2)経営品質の導入
(ア)日本経営品質協議会 経営デザイン認証スタートアップ認証&ランクアップ認証
(イ)日本経営品質協議会 経営品質賞トライアル審査
(ウ)経営数字(財務諸表等)の全社公開、経営状態の見える化
(エ)経営の設計図、ロードマップ・アクションプランの導入
(オ)WCM(Will-Can-Must)シート(キャリアデザインシート)の導入
(カ)従業員満足度調査の実施
(キ)顧客満足度調査の実施
(ク)ICT(意図的変革理論)フィードバック(思いやりのフィードバック)の導入
3)人事制度の改定
(ア)成長シート(人事評価にも活用)の導入
(イ)iCD(iコンピテンシーディクショナリー)の導入
(ウ)給与・退職金制度を改定予定(26年度より)
(エ)研修マップの策定
(オ)全体研修の年1回実施
4)ISO関連や各種認定の取得・認定(プライバシーマークは取得済み)
(ア)ISO27001(情報セキュリティ、ISMS)
(イ)ISO9001(品質マネジメント、QMS)
(ウ)えるぼし(3つ星)
(エ)TOKYOパパ育業促進企業 ブロンズ(50%以上)
5)各種制度の制定
(ア)夏休みを年間通じて取得可能へ(リフレッシュ休暇制度へ変更)
(イ)自己啓発制度の改定(年20万円/人まで会社補助)
(ウ)失効有休の積立有休制度の新設
(エ)在宅勤務制度および各種手当ての新設
(オ)スマホの全従業員の貸与
(カ)時差勤務制度、フレックスタイム制度の導入
(キ)顧客先常駐勤務手当、固定勤務手当の支給(コロナ時の一時的なもの)
(ク)コロナ後のインフレ手当の支給
(ケ)育児時短期間を3歳になるまでから、小学校に入学するまでに改定

正直、難しいことは分からないという人も多いかと思います。
私も正直これらが「人を大切にする経営」や「人的資本経営」という風に考えていませんでした。
私がとにかく大切にしてきた思いは、「従業員を我が子のように成長させるためには、どのように教育したらよいのか」ということを考えて経営をしてきただけです。それが実は、「人を大切にする経営」や「人的資本経営」であったという結果論でした。
つまり、社長は社員第一主義。従業員は、顧客第一主義のイメージで進めてきただけなのです。

時間はかかりますが、「人を大切にする経営」や「人的資本経営」により、従業員の会社への態度が本当に変わってきます。

そして、これを実感し始めたとき、私がやってきたことは、ダニエル・キムの成功循環モデルであったんだなと感じています。

図 ダニエル・キムの成功循環モデル

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出典:斉藤徹の講義スライド https://www.join-the-dots.net/blog/hint0018

つまり、私はまず従業員との関係の質の向上(従業員を大切にする経営)から始めました。その結果が業績の向上に直接関連しているところまではまだ行き着いておりませんが、従業員から会社への提案が格段に増えて、そして、その提案を多少の修正があるとしても、基本路線としては認めてきました。
結果として、会社の雰囲気が変わってきましたねという声が従業員からもでてきました。

今回は概要のみとなりましたが、もっと詳しく話を聞きたいということであれば、私が代表を勤める会社のホームページからお問い合わせいただければ、できる限りの対応はさせていだきますので、お気軽にお問い合わせください。

参考資料
記事に記載中のコラム
公益財団法人 東京都中小企業振興公社主催 中小企業人的資本経営支援事業 令和6年度 第1回普及セミナー 第1部 企業競争力を高める人的資本経営の配布資料
ダニエル・キムの「成功循環モデル」を疑ってみよう(https://www.join-the-dots.net/blog/hint0018
ICTコーチング 合同会社unlock(https://unlock.co.jp/service/ict-coaching-training

■松島 大介(まつしま だいすけ)
2012年11月中小企業診断士登録 / 東京都中小企業診断士協会 中央支部 副支部長 国際部所属(2024年9月現在)
株式会社国際協力データサービス 代表取締役
https://www.icds.co.jp
2024年3月 第14回 日本でいちばん大切にしたい会社大賞 審査委員会特別賞受賞
CQ Center 公認ファシリテーター / CWQ 公認アソシエイト /
異文化エキスパート養成講座 第1期生 / 2030SDGsゲーム 公認ファシリテーター
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