1.はじめに
中小企業は、限られた経営資源のなかで日々の業務をこなしながら、さまざまな課題に対応する必要がある。少子化や温暖化といった社会変化が急速に進んでいる今、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)などの課題への対応は、持続可能な経営のために避けられないものである。また、それぞれに対応するための追加作業や管理業務が増加することも予想される。
2008年をピークに人口は減少しており、特に生産年齢人口(15歳以上65歳未満)は今後も減少が続く見込みである。

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(出典) 内閣府「令和4年版高齢社会白書」

上の図からもわかるように、生産年齢人口は2010年の8,103万人から、2030年には6,875万人、2040年には5,978万人に減少すると予想されている。働く人が減ることで、1人あたりの業務負担が増える可能性が高い。これに対応するためには、業務の見直しが不可欠である。業務の本質を考え、効率を改善し、不要な業務を削減することで、減少する人員でも新たな課題に対応できる余力を確保することが求められる。

今回のコラムでは、業務の変革を日々の業務の中で着実に進めていくために、「引き算(-)」にフォーカスし、中小企業の経営効率を高める方法をお伝えする。

2.業務の本質にフォーカスする
業務の本質を考える際に推奨したいのが、ECRSの考え方を用いて業務を再評価する方法である。ECRS(イクルス)は、業務を効率化するためのフレームワークであり、業務の見直しを進める際に非常に有効である。ECRSは「E: 排除」「C: 結合」「R: 交換」「S: 簡素化」の頭文字からなり、E → C → R → S の順で業務を検討し、無駄な作業を削減することで、経営資源をより有効に活用できるようになる。

(1)E(Eliminate):排除
業務の中には、過去に導入されたプロセスや手順がそのまま残っている場合があるが、それらが現状では不要なことも多い。最初に行うべきは無駄な業務を「排除」することである。
すなわち、やらなくても良い業務を見極めること。本質的ではなくても良い業務を残すと経営リソースを無駄に使うことになるため、思い切って排除する判断が経営者には必要である。

例えば、以下の視点で業務を見直すことが有効である。

① 過去には有効だったが、今では不要になっている業務がないか?
長年引き継がれている業務の中には、現在の状況ではあまり意味を持たないものも含まれている可能性がある。古い慣習に基づく業務は見直し、不要なものは廃止することで、余力を確保することができる。

② 属人化された業務がないか?
特定の人物に依存している業務があると、その人物が退職や病欠などの事情が生じると業務が滞るリスクが高い。業務を標準化することで、他の従業員でも対応できるようにし、業務の安定性を向上させることが重要である。

③ 会議や報告業務の見直しができないか?
会議が多すぎたり、参加者が過剰であったりする場合、時間とリソースが無駄になりがちである。会議の目的を明確にし、議論が進まない会議や報告の無駄を見直すことが必要である。日常業務の報告プロセスについても、改善の余地があるかもしれない。

(2)C(Combine):結合
業務の効率化を進めるために、類似した業務やプロセスを「結合」することが有効である。複数の業務が似た目的を持つ場合、それらを一つにまとめることで、業務の流れをスムーズにし、効率を高めることができる。

例えば、M社ではAさんとBさんが別々に顧客データを管理していたが、両者のデータが重複していることが判明した。顧客データ管理を統合し、共有のリストを利用することで、重複したデータ入力を削減し、データの整合性も向上させることができた。

(3)R(Rearrange):交換
次に、業務の手順や順序を見直し、効率化するために「交換」のアプローチを検討する。業務フローの中で非効率な順序や役割の配置が原因で時間やリソースを無駄にしている場合がある。これらを見直すことで、同じ業務をよりスムーズに進めることができる。

例えば、K社では、発注担当者と在庫確認担当者が別々に作業をしていたため、在庫不足が頻発していた。発注前に在庫確認を行う手順に変更した結果、発注作業がスムーズに進み、緊急発注が大幅に減少した。

(4)S(Simplify):簡素化
最後に、業務プロセスは複雑になっていることがある。改めて業務を見直して「簡素化」することで効率を高めることができる。業務が複雑であるとミスや無駄が発生しやすくなり、チェックする項目数も増えるため、シンプルでわかりやすい手順にすることが重要である。

例えば、H社ではプロジェクトごとに異なるフォーマットの報告書が使われており、報告書作成が煩雑になっていた。報告書の目的は何かを改めて考え、その目的を達成するためにフォーマットを統一し、入力項目を必要最低限にすることで、報告業務がスムーズに進み、確認作業も効率化された。

3. おわりに
今後、労働力不足が一層進むなかで、従来の業務を同じ人数でこなすことは難しくなる。ビジネス環境を見据え、業務に余力を持たせる体制を整えることが不可欠である。不要な業務を削減し、少ない人手でも回る仕組みを作ることが求められる。

今回は「引き算」にフォーカスして、経営資源を効率的に活用する方法を説明した。
将来を見据えた業務の見直しや業務改善に関して、相談や壁打ちをしたい場合には、ぜひ中小企業診断士の活用を勧めたい。

略歴
水口 淳一郎(みなぐち じゅんいちろう)
東京理科大学大学院 情報科学専攻 修士課程修了
大手鉄道系のITベンダーに25年勤務後、経営コンサルタントとして独立
合同会社CHub・P 代表 https://chubp.com/
リラティブコンサルティング 代表
経済産業大臣登録 中小企業診断士
認定経営革新等支援機関(ID:107013005610)
(一社)東京都中小企業診断士協会 中央支部執行委員 総務部副部長・国際部副部長
SHIP 品川産業支援交流施設 インキュベーションマネージャ-
会社や事業のさらなる成長に向けて、全身全霊をかけて支援する、をモットーとしている
※中央支部グローバルウィンド「ブリスベンの魅力を探る」(2024年9月)を執筆
https://www.rmc-chuo.jp/globalwind/2024090102.html