グローバルウインド「社会起業家の国際交流」(2024年6月)
国際部 宮川公一
1.起業と社会起業の違いとは
昨今、社会起業家が国際的にも増えてきて、注目されています。
社会起業家は、いろいろな社会課題に対して、ビジネスの観点から、事業化して解決策を見いだそうとしている起業家の方々です。ビルトレイトン氏が世界で初めて、「社会起業」という考え方を提唱したと言われています。
起業と社会起業の違いは、中々わかりにくいかもしれませんが、あえて言うと、事業が追求する「目的」の違いであるといえます。
一般的に、起業家は、事業を拡大して、利益を追求していくことが主であると言えますが、社会起業家は、社会で起こっている様々な、課題を解決することを事業のミッションとしていることであるとも言えます。もちろん、ずっと利益が生まれない状況では、社会起業家も事業継続は難しくなるので、収益は上げていかないといけないのは共通です。そこがボランティアとは一線を画するところです。
社会起業大学では、「SEC METHOD(セックメソッド)」という概念をまとめ体系化(下図)しています。
社会起業大学のホームページでは、次のように社会起業家を定義づけています。
『社会起業家の条件としては、「社会課題」「自分らしさ」「ビジネス」という3つの要素を持っており、それぞれが重なり合い存在しています。それぞれの重なり合いにおいて「ソーシャルミッション」「差別化」「持続性」という価値を見出し、すべてが重なる領域において、社会起業を実現されているという点で共通しており、社会起業家の条件と言えます。』
引用元:METHOD(Social Entrepreneur College METHOD)
2.日本の社会起業家の交流会「TOKYO Social Mixer」に参加して
2023年の秋に、香港の若手起業家であるQueenie Man さんと日本の若手社会起業家の田中美咲さんが中心になって、 という香港と日本の社会起業家の交流会を開催しました。私が関わっているHOPE worldwideというグローバルなNGO団体が国別に社会事業展開をしていますが、その香港にある事業所の若手スタッフから紹介していただき、参加してきました。
高齢者分野、福祉分野、障がい者分野などで活動している若手の社会起業家の方々が集まって、意見交換をするという趣旨のものでした。
主催者の一人であるQueenieさんは、ペースト食しか食べられなくなった高齢者の方々が、中身はペーストですが、見た目は本物のように加工しなおした料理などを作っていて、食べる喜びを咀嚼力が低下した高齢者の方々にも、食事の時の見た目の楽しみも味わってもらおうと開発努力を重ねて社会事業を経営しています。もう一人の主催者の田中さんは、障害を持った方がより着やすく、見た目のデザインもおしゃれな服装などを開発している企業の代表をしています。
TOKYO Social Mixerの当日は、田中さんが代表を務めるSOLITが新宿丸井の展示スペースで展示をされていましたので、そこに集まって英語でのグループディスカッションをしました。展示会では、見た目は、ボタンに見えるけれど、裏が磁石になっていて、障がい者の方が、脱ぎ着しやすいようなデザインも素敵なシャツの展示をしておりました。SOLITは、医療・福祉・建築、不動産、自動車、家具家電、服飾など、生きていく上で必要なもの全てにおいて、「オール・インクルーシブ(All-inclusive)」である状態の実現を目指したインクルーシブデザインソリューションの提案を行い、あらゆる領域との協働・連携による事業展開を進めています。
英語でのグループディスカッションでは、参加者一人一人が、どのような事業を営んでいるかの紹介、簡単な質疑や交流の後、近くの和食のお店に移動して、会食をしながらの懇親を深めました。カンファレンスのような大々的なものではないですが、社会起業家同士が、互いの考え方や意見交換をゆっくりとすることができ、つながりが生まれる時間となりました。
3.TOKYO Social Mixer参加後の広がり
後日、社会起業家のみなさんが私が理事を務めているA型、B型就労支援事業所(特定非営利活動法人ホープワールドワイド・ジャパン)にも立ち寄ってくれて、パンやお菓子の工房と、利用者がデザインを通して就労経験をしているアトリエで、現場を見学していってくれました。
2023年、別の海外から来たグループの方が見学しに訪問してくれた時に、障がい者の方々が作る作品のすばらしさに驚きを見せていたのと同時に、社会の受け止め方も日本と自国では違うと言ってその違いを語られていました。日本も最近になって障がい者の社会参加や、社会活動が盛んになってきていますが、まだ偏見や社会参加の遅れがある国があるのを、見学者の方との会話から感じ取ることができました。
最近は、インスタグラムでの投稿を海外の方が見られて、障がい者の利用者が作った作品を気に入り、来日した時に事業所によってくれて作品を見たり、購入するケースも出てきました。SNSの影響が拡大している状況の中で、社会起業家が営む事業も今後、国際間交流が益々盛んになっていくと予想できます。ローカルな取り組みに対して、それを応援しようといる地域外の方の支援を受けることがしやすくなってもきています。近頃クラウドファンディングも盛んになってきており、社会起業家が考える事業を財政面からも支援したいという人たちの力も借りることができるようになってきています。
今回は、香港と日本の社会起業家の交流でしたが、これからも益々、個々の社会起業家同志のつながりから、コラボレーションが生まれたり、グローバルな連携が図れる社会課題解決型の事業が生まれていくのではと思います。
■宮川 公一(みやかわ こういち)
東京都出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒。
EL経営株式会社 代表取締役。
2011年4月中小企業診断士登録。東京協会中央支部国際部。介護福祉士、事業再生士補、介護福祉経営士1級、医療経営士3級。健康経営エキスパートアドバイザー、一般社団法人自走式組織協会世話人、日本経営診断学会員、人を大切にする経営学会会員、日本認知症グループホーム協会会員。
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