グローバルウインド「中央支部研修部・会員部・国際部コラボイベント『高度外国人材を活用した事業強化と海外展開』開催(2024年4月)
国際部 楠本 洋一
2024年3月3日(日)、中央支部研修部・会員部・国際部合同企画によるコラボイベント「高度外国人材を活用した事業強化と海外展開~山梨からベトナム・ドバイへ、日本伝統建築・素朴屋の挑戦~」が、文京区の不忍通りふれあい館、素朴屋根津事務所にて開催されました。素朴屋株式会社 代表取締役 今井久志様、そして社員の皆さまに、素朴屋のチャレンジと熱い想いを語って頂きました。
素朴屋創業のきっかけ
今井社長は、水産大学校を卒業後、木や山々の雄大さに魅了されて林業に従事。木樵(きこり)としてキャリアを重ねてカナダへ渡り、ログハウスメーカーで大工に従事しながら、独学で様々な建築を学ばれました。2006年に素朴屋株式会社を創業し、2014年に法人登記して事業を拡大しています。
「創業資金を蓄えるために、もともとは林業会社に日雇いで勤めていました。同僚が山の間伐作業で怪我をしたときの経験から下請の仕事に限界を感じ、自分をブランディングして元請で仕事ができるようにしたいと、会社を創業しました。創業といっても、山の仕事だけでなく、草刈り、煙突掃除、片付けなど何でもやりました。人に認められる喜び、やりがいがありました。」
素朴屋の本社は山梨県北杜市にあります。後ろに八ヶ岳、前に富士山という絶景に、自ら建てた事務所があります。自分たちで使う建物は自らつくり、自分たちの手仕事や日本の伝統建築を伝えています。また、今年2月に首都圏や海外のお客さま対応の拠点として、東京・根津に事務所を開所。自社でフルリフォームし、1階は茶屋(カフェ)、2階は設計事務所となっています。
「2019年に本社を現所在地へ移転しました。地域の方にお願いして小学校跡地を借り、加工場と事務所を建てました。建築屋として、建てたものを、自分たちがつかうことによって、できることできないこと、改善すべきことのフィードバックがあります。」
「根津事務所も始まります。こじんまりとした、身の丈に合ったスタートだと思います。東京の人は私たちのことを誰も知りません。私たちを知っていただくきっかけづくり、私たちのモノづくりを気軽に見て触って感じていただける場所にしたいと思い、1階を茶屋(カフェ)にしました。根津の風土、雰囲気にマッチして、地域に受け入れられたらうれしいですね。」
写真:根津事務所1階のカフェ。内装に木や土をふんだんにつかい、洞窟のような雰囲気
海外への進出と高度外国人材の採用
2019年に家族旅行でベトナムを訪問。若くて、勢いがあって、パワフルなベトナム。今日より明日がよくなると信じて一所懸命やっている姿に感銘を受けたといいます。そして2020年4月にベトナムの進出準備を開始。コロナ禍のさなか、社員5名ほどの会社の挑戦の始まりです。
「当時旅行したときには、会社をつくるとは夢にも思いませんでした。きっかけは社員が辞めたこと。社員5名ほどの会社なのに、1年で3名も辞めたのです。社員が辞めるということは、会社に魅力がない、社長に魅力がないということ。私なりに努力していたつもりでしたが、そうであれば、好きなこと、夢のようなことをやろうと考えました。そうすると不思議なことに人が集まってくるようになったのです。他の国は見ていません。ここしかないと思えば、そこにベストを尽くすのみです。」
外国人スタッフの採用には、JETRO、経産省などのオンライン合同企業説明会を活用しています。現在、素朴屋ではベトナムだけでなく、ベルギー(コンゴ)、スウェーデンなど様々な国からスタッフが集まっています。素朴屋は外国人スタッフとともに育つ会社だといいます。
「コロナ禍で採用活動がオンラインに切り替わったのは、私たちにとって大きなアドバンテージでした。山梨も東京と同じ土俵に立つことができます。また、オンラインイベントではあらゆる国の人が参加しています。ベトナム人だけでなく、興味を持ってくれる人が出身国問わず集まってくれたのはありがたいですね。」
「あるスタッフが2日間のインターンの最終日に発表してくれたプレゼンで、『素朴屋の売りはデザイン』、『世界でニーズがある』と言ってくれました。外からの目でポテンシャルがあると言ってもらえることは大きな力になり、勇気づけられますね。」
デボス ロイカさん(Devos Loica)
「東京の日本語学校を卒業して山梨に引っ越しました。東京から移住するのは不安でもありましたが、自然素材を使う仕事をしたい、日本の伝統建築を勉強したいと思い決断しました。山梨に住んで2年になりますが、今月から根津事務所長として東京に戻ります。仕事は楽しいですよ。」
アレクサンダー ロースガードさん(Alexander Rosgardt)
「京都の大学で国際関係を勉強していました。木材でできた日本の伝統的な建物に興味があり、面白いと思ったのがきっかけです。社長が京都まで会いに来てくれました。最初はリモートで勤務し、昨年末から根津事務所で働いています。」
社長としての想い
コロナ禍でベトナムに渡航することもままならず、欲しい情報も得られなかった今井社長。社長として大事なことは覚悟に尽きる、推進力とやけくそは紙一重だといいます。
「海外進出にあたり、事前調査をたくさん行って方程式をつくっても、理解できない変数は残ります。精度をあげても、結局答えがどうなるかは分かりません。その前提で、たくさん準備して判断することよりも、起きたことにうまく柔軟に対応することの方が重要です。海外に出ていくことも、外国人スタッフを採用することも、すべての責任が自分にあるという覚悟をもつことが大事だと思います。」
パリやドバイでも展示会に出展。次はドバイへの進出を見据えます。また、ブランディングにも力を入れています。
「パリとドバイの展示会で、茶室を展示しました。ドバイは情報と人と金のハブです。人種も多様ですごいですね。ここで一歩を踏み出せれば、世界に門戸が開くと感じています。」
「世界で、日本の建築や素材の魅力を伝え、素朴屋のブランドを確立していきたいですね。これからは、ものを仕入れて、加工して、売るだけだととてもやっていけません。海外のハイブランドのように、コストプラスではなく、売りたいものを買う人がいるというビジネスにしたい。そうすることで、社員にもまっとうな対価を払うことができるようになります。採用にもブランディングが重要です。企業の魅力を高めて、選んでもらうしかありません。将来は上場したい!そう口に出して言っていれば、いつか本当になるかもしれませんよね(笑)」
■楠本 洋一(くすもと よういち)
東京都中小企業診断士協会 中央支部 国際部所属
インドで工場立ち上げやPMIに従事。現地駐在中に中小企業診断士試験を受験。帰国後、2022年9月中小企業診断士登録。企業内診断士として新規事業やM&A、人材開発等に携わる。