国際部 三宅 秀晃

 

ラストワンマイルの移動手段として日本国内でもシェアサイクルが普及してきており、東京でも赤や白の自転車に乗るビジネスマンをよく見かけるようになりました。

シェアサイクルやシェアバイクは持続可能な移動手段として、また、ラストワンマイルの課題に対して有効とされており、今後も拡大していくことが想定されます。私が今住んでいるジャカルタでは残念ながらシェアサイクルは放置され、そして撤去されてしまいましたが、先日訪問したベトナム・ホーチミンでもシェアサイクルが、バリ島でも電動自転車の導入が始まっています。日本では自転車タイプのものが一般的ですが、国外に目を向けるとより便利なものを見ることもあります。

先日台湾に滞在した際に、より多様で便利なシェアサイクル、シェアバイクやバッテリー交換式の電動二輪車での長距離ツーリングなど、日本にはない交通手段を体験してきました。その中から、今回は台湾におけるシェアバイク事情についてお伝えできればと思います。

 

■日本と台湾のシェアサイクル・シェアバイクにおける違い

日本、台湾ともにサービス展開は一部主要都市のみですが、エリアカバレッジはシェアサイクルについては同等か台湾のほうが少々広く、シェアバイクについては台湾のほうが圧倒的に広いというのが両者を実際に使った印象です。

日本と台湾のシェアサイクルにおける主要プレイヤーをまとめると、台湾には日本にはないアシストなしのシェアサイクルがあること、シェアバイクが日本では一人乗り、台湾では二人乗り中心であるというところに違いがあることがわかります。

図表1 日本と台湾の違い

図表1:日本と台湾のシェアサイクル・シェアバイクにおける違い

(※) 台湾や欧州では時速25km未満で走る自動二輪車は免許不要とされています。日本でも7月1日より特定小型原動機付自転車というカテゴリとなる時速20km未満のものは免許不要となりました。最高速度が国際的に統一されていないことは残念に感じます。
(※)東京又は台北以外地域のみのサービスは地域名を記載しています。
(※)本記事ではスクーターや電動キックボード等の小型モビリティを区別せずバイクと表記しています。

日本のサービスを活用することは今までもありましたが、今回台湾で体験する機会がありました。その中で台湾のシェアバイクが便利だと感じた点を紹介します。

 

■台湾のシェアバイクが便利な点①乗り捨て先がステーションに限らない

台湾のシェアバイクで最も便利だと感じた点が、乗り捨て先がステーションに限らないという点です。シェアサイクルのYouBikeはステーションへの返却が必要ですが、バイクタイプではサービス提供エリア内であれば街中の路上駐車場どこでも返却可能となっています。台湾では大都市の中心部であっても路上に誰でも自由に駐車可能な二輪車駐輪区画が設けられており、そのスペースへ返却可能です。

写真1 高雄市の地下鉄駅前

写真1:高雄市の地下鉄駅前の自動二輪車駐車区画

車道側(左)が自動二輪車駐車区画、その奥が自動車駐車区画(料金徴収手法は異なるが日本でいうパーキングチケットのような有料区画)、右の歩道上がシェアサイクルYouBikeステーションです。車道上のバイクが並んでいる駐輪区画で駐車、返却が可能です。

日本のシェアバイクではまだまだステーションの数が少なく地下鉄の駅前から乗車して目的地付近で返却するということが難しいと感じますが、台湾では地下鉄の駅前においてあるシェアバイクをレンタルして目的地の目の前に返却する事ができてとても効率よく移動ができました。

バイクはエリア内の公共駐輪場であればどこへでも返却可能となっていますが、これは違反した場合の駐車違反金等をドライバーから徴収する仕組みがあることで実現しているのでしょう。違反時はクレジットカードから違反金が引き落とされることや、返却時の写真撮影が推奨されているなど、駐車違反時の責任を確実にドライバーに負わせることで無秩序な放置を防いでいるように思います。

逆に台湾のシェアサイクルはステーションへの返却が物理的な接点により行われています。そのため返却ステーションに空きがない場合は返却できないというデメリットもあるのですが、正しく返却しないと返却が認識されない機構とすることで無秩序に自転車が置かれてしまうようなことを防いでいるようでした。過去にはいくつかの事業者の試行錯誤があったようです。

 

■台湾のシェアバイクが便利な点②台数が多いのでどこでもすぐに見つけられる

今まで述べた点とも一部共通するのですが、台数が多く街中のどこでもすぐに借りられるというのは全く違う体験をもたらしてくれました。日本でシェアバイクといえばステーションまで数分歩いて借りて、そして目的地に到着した後も近くのステーションを探してまた歩くことを考えると借りるのも億劫になってしまうのが私のイメージですが、台湾ではエリアの中心部であれば億劫になるほど歩くことがありませんでした。

利用者が先か、エリア密度が先か、というのは事業者側からすると難しいところですが、これまでに高密度に配備されていると利用が一気に増えるのもうなずけます。

図表2-3

図表2(左):「Shaero」東京駅付近でレンタル可能なステーションを表示した画面、図表3(右):「WeMo」台北駅付近でレンタル可能なバイクを表示した画面

執筆時におけるShaeroとWeMoの画面がこちらです。レンタル可能な場所の密度が全く違います。これは利用が増えればそれに応じて台数やステーションも増えると思われるので、日本も更に便利になるようできるだけ利用しようと思いました。

 

■台湾のシェアバイクが便利な点③二人乗りが可能で交通法規も一般車同様

返却やレンタル地点の他に便利だと思った点は二人乗りが可能で、他の交通同様に走れるということです。ある時は友人との待ち合わせにシェアバイクで向かい、その後その友人を近くの駅まで送り届けることができました。これも二人乗りが可能な車格のものがレンタル対象となっているからこそ可能でした。シート下にはヘルメットも2つ入っています。

写真2 WeMoのバイク

写真2:WeMoのバイク

WeMoのバイクはKymco Candy 3.0 EV。50ccの車格(普通輕型機車)。最高時速は55km前後、台湾では二人乗りが可能です。筆者はベトナムでガソリン車版のCandyに乗っており、運転しながら懐かしく感じました。台湾ではバイクであれば50ccクラスでも125ccクラスでも同じように一般道の流れに乗ることができるというのも便利に感じられた点です。

台湾では二輪車免許の保有割合が日本に比べて高いことから、免許必要なバイクであっても大きなマーケットがあるのかもしれません。日本では免許必要なシェアバイクとなるとマーケットが小さそうです。こればかりは事業者側ではどうしようもなく規制緩和などが必要ですが、一般道において他の交通と同速度で走行可能なシェアバイクが日本においても導入されると一気に便利になりそうです。なお、台湾においては250cc以下のバイクは二段階左折が必要であり、車同様に走れるわけではありません。それでも、多くの他の交通と同じように運転可能という点はメリットとして挙げられると思います。

 

■実際に活用して感じたことと期待

今回YouBike、Goku、WeMoという3種類のモビリティを実際に体験してきました。

YouBikeとGokuは免許不要で、WeMoは小型限定普通二輪免許以上の中文翻訳または現地の免許証等が必要です。中文翻訳は日台交流協会またはJAFで入手可能です。iRent、GoShareは台湾の居留証が必要とのことで観光ビザでは利用できませんでした。Gokuは高雄市のみの展開ですが免許不要なのでハードルは低めです。ぜひ利用してみると新しい発見があるはずです。

実際に活用して、返却の自由度の高さが利便性の高さに繋がることを強く感じました。東京であればステーションまでの距離を考えると地下鉄を使ったほうが便利と感じる場面が多かったのですが、台北ではほとんどの場面で駅まで歩くよりもシェアバイクのほうが近くにあり地下鉄を使う場面はありませんでした。

最高速度が25kmに制限されているGokubu乗車中に感じたことは、速度差のあるモビリティが公道上にいることを他のドライバーがある程度慣れているということです。多くのケースで道路の右端(台湾は右側通行)を走れば追い抜きができるところまで待って安全に追い抜いてくれました。日本で原付を30kmで運転する際や最高時速15kmのLOOPに乗車する際には車線内で無理な追い抜きをかけられることがあったことを考えると安心感がありました。今後は日本でも特定小型原付が公道に増えていくことで、各運転者が低速車の公道参加に慣れていったり、低速車用レーンの拡充があったりと変化していくことを期待したいです。

シェアサイクルの導入が早かった国では自転車の故障や放置が社会問題となっていましたが、それを防ぐための方策を検討した上での返却方式が取られていると感じました。日本ではある程度秩序だった利用が行われていますが、今後世界中にシェアサイクルが広まっていく際にはこのあたりの事例も大きな参考になるように感じます。

東京都心部は公共交通機関が非常に発展していますが、地方部に目を向ければラストワンマイルの問題はまだまだ残っています。持続可能な社会に向けて自動車を減らすという力学と自動車販売台数を伸ばすという産業政策とのバランスは難しいようですが、大きな流れとして持続可能な社会の実現に向けた保有からシェアへという動きは続いていくはずです。

世界に目を向ければ移動は多くの国民にとっての課題となっているはずです。東南アジア諸国もバイクを排除する方向での発展を志向する国もあれば、共存する方向での発展を志向する国もあるように感じますが、台湾の事例は日本とは若干違う方向での解決事例として各国の大きな参考になっているのではないでしょうか。

今回は都市内移動のシェアバイクを紹介しましたが、別途体験したバッテリー交換型バイクも都市間長距離ツーリングを楽しみ、都市部、郊外部のステーション配置やガソリンとは異なる充電したくなるタイミングなど色々と新しい発見がありました。デスクトップ調査も良いですが百聞は一見にしかず、旅行のついでに日本にはない現地のサービスを使ってみるのは色々な発見があるのでおすすめです。日本企業が日本にある解決策だけでなく各国の事例をうまく融合させて、日本国内及び世界の課題を解決していくことを期待したいです。

 

■三宅 秀晃(みやけ ひであき)

2011年中小企業診断士登録後すぐにベトナムに渡り様々な事業を行う。2020年旧正月の旅行中にコロナが始まりベトナムの自宅に帰れないまま日本帰国。支援の幅を広げるべく2022年よりジャカルタ駐在中。趣味は東南アジアツーリング。東京都中小企業診断士協会 中央支部国際部部員。
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