日頃、創業やスタートアップ企業や新しい事業を始める方とお話をさせていただく機会があります。そのようなときに、「エフェクチュエーション」について知る機会があり、その5つの要素が生かせるのではないかと着想を得てまとめました。既にお目にされたり、ご存じの方もおられると思いますが、ご参考にしていただけると嬉しいです。

1.エフェクチュエーション(Effectuation)とは
「エフェクチュエーション」とは、インド人経営学者サラス・サラスバシー氏が、著書『エフェクチュエーション、市場創造の実効理論』のなかで提唱した。優れた起業家に共通する行動論理・プロセスを体系化した論理です。同著によると、優れた起業家の89%がエフェクチュエーションを実践しているということです。

早速、その5つの原則をご紹介します。

2.その1「手中の鳥の原則(Bird in Hand)」
対象市場や事業のゴールの目的を探して、答えを見つけるのではなく、目の前にあるものから「紡ぎだす(見つけ出す)」1_pet_kotoba_oshieru_inkoと述べています。料理で例えると、メニューを決めて材料を探してつくるのではなく、台所の残り物を使った創作料理をつくることのようです。「幸せの青い鳥は探し求めるのではなく、すぐ近くにいるものから探し出す」ということではないかと思われます。

ただし、日々様々な刺激を受け取られる中、「自分の目の前に何があるのか(台所にはどんな食材があるか)」を冷静に見つめるのは難しいことですので、おすすめツールを2つご紹介します。

図表1:事業について洗い出すツール
221101_fig01 これらについてはセミナーなども開催されています。作成に行き詰まられた時は、公的支援機関等で専門家と対話をすることもおすすめします。

3.その2「 許容可能な損失の原則(Affordable Loss)」

何かを始めるということは、上手くいく場合(利益をもたらす場合)とうまくいかない場合(損失をもたらす場合)があり、2_kabu_chart_man_cryどちらに転ぶかは不確実です。上手くいって利益をもたらした場合はラッキーといわれ、損失をもたらす場合のことがリスクといわれるのかもしれません。

リスクを減らすために、成功確率を上げるため、前もって計画をたてることは重要ですが、VUCAといわれる不確実な時代では計画を立てても前提が変わっていく可能性もあり得ます。

そこで、損失が生じても致命的にはならない範囲(コスト)を予め設定しておき、それを上回った場合は中止検討・判断をすることが有効です。

一方、設備投資費用がかかる常設店舗ではなく、ポップアップ(催事)にする、固定のオフィスではなくシェアオフィスを使うなど、投資額を下げることで致命的にならないコストに至る確率を下げることも有効です。

リスクとは、ひと、もの、かね、情報という経営資源に紐づきます。そこで、以下に経営資源別にまとめました。

図表2:経営資源別リスクとその低減方法
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 これらについて災害が起こった時の対応については「事業継続力強化計画」という制度があり、中小機構では「事業継続力強化計画作成ツール」を活用できます。2022年10月現在は専門家派遣制度もありますのでおすすめです。情報・DX関係はIPAの「DX推進指標」をご活用ください。このあたりの制度は増えていくように感じております。

4.その3「 クレイジーキルトの原則(Crazy-Quilt)」

リスクを減らして、差別化を高めていくためには、関わる関係者たちがクレイジーキルト(パッチワークで様々な布を縫い合わせること)をするように事前プロセスから参加するのを巻き込むのも重要といわれています。経営者は顧客や異業種の会社、競合他社、協力会社、従業員、専門家などさまざまなパートナーと一緒に開発する、仕入れる、資源を利用する、営業を依頼するなど連携することで、自分たちのユニークネス(特異性)を高め、他人には真似できない世界を作り、競争優位を高めながら、より事業を広げることができます。3_patch_work

パートナーの探し方はいろいろあります。

方法1:マッチング機会を活用

公的支援機関などで開催しているビジネスマッチング、展示会で探す。開催情報は中央支部メルマガでも発信していますのでぜひご購読ください。東京都中小企業振興公社の「ビジネスチャンスナビ」や中小機構の「ジョグテック」などマッチングサイトの活用もおすすめです。

方法2:気になったら声をかけてみる
ご活躍している経営者の方からは「気になる方に直接コンタクトをしました」「会合で名刺交換して、直接連絡をいただきました」というお話をよく聞きます。私自身も新規事業担当者時代に無名のサイトに誰もが知っている有名事業者の社長から直接、フォームから提携のお話をいただいたことがあります。検討時間は1日といわれ、上司に相談しようと決断を悩んでいたところそのお話はなくなりました。以降、決断スピードは早めるよう心がけています。インスタグラムやFacebook、会社の問い合わせフォームなどでコンタクトすれば、感度の高く、柔軟な方であれば、そこから前に進むかもしれません。働きかけが苦手な方はエッジの聞いた発信をして関心を持ってくれる方からの反応を待つ方法もあるかもしれません。

ただし、連携はメリットばかりではありません。気を付けることとしては、「2. 許容可能な損失の原則(Affordable Loss)」の視点です。連携先に過度に依存して大きな損失を追わないよう、担当分野を明確にしておく(例外がある場合は話して変えていく)、NDA(秘密保持契約)や契約書を結んでおくことも必要です。

5.その4「レモネードの原則(Lemonade)」

「酸っぱいレモンをつかまされたら、レモネードを作れ」ということわざがあるそうです。今はレモネードブームですが、レモネードが登場したのはそのまま出荷できなかった欠陥品の4_drink_lemonadeレモンを絞って液体として出荷したことから始まったそうです。欠陥品にみえるものでも、視点を変えたりポジティブな捉え方をすることで新たな価値を持つ製品へと生まれ変わらせる「意味づけ」「リメイク力」が重要というべきでしょうか。ヒット商品のストーリーでも、「セレンディピティ(幸福な偶然)」のエピソードもよくあるように思います。

 

この件では、様々な事例集が出されています。代表的な例では、東京都「中小企業活力向上プロジェクト」やよろず支援拠点からは事例集が出されています。また、中小企業の事業転換に対する補助金である「事業再構築補助金」の採択者一覧のところに事業の概要が公開されています。自分の所属する業種からどんな新規事業を展開しているかもヒントになるかもしれないですし。異業種の転換事例を見ると新たな発想が出てくるかもしれません。

6.「その5. 飛行機の中のパイロットの原則(Pilot-in-the-plane)」

高精度の計器が揃ったで飛んでいる飛行機の中のパイロットは、計器の値を確認しながら、状況に応じて臨機応変な行動を取り、到着地に向かっていきます。未来は誰かによって発見されたり、予測されたりするものではなく、自らの戦略によって築いていくものということと伝えています。5_airplane_cockpit_sky

「1:手中の鳥の原則(Bird in Hand)」の通り自分が持っているものに注目し、周囲からのフィードバックや要望に答えていたら、山の頂上まで来ていたというケースもあるかもしれません。「バックキャスティング」というありたい未来を描き、今に戻すならそこから何をするべきかと考えていく手法も参考になりそうです。

ここで役立つものとしては、事業における到着地にあたる「事業計画の策定」、その中でも事業計画を都道府県が認定してくれる「経営革新」が役立つのではないかと思われます。その2「 許容可能な損失の原則(Affordable Loss)」では「計画はその通りいかないことがある」とお伝えしましたが、前もって事業における計画やビジョンを立てておくことは有効なことはあらゆるところでいわれています。

経営革新には、定量部分(いつまでにいくら収益を上げるか)、定性部分(どういう会社にしていきたいか)の2つの要素があり、自社のいままでとこれからを振り返れる機会になります。認定されると取引先・顧客・金融機関の信頼を高めることができ、ものづくり補助金については加点になるなどの特典もあります。事業計画の作成については公的支援機関で中小企業診断士が無料で相談にのってくれます。よろしければぜひ検討してみてください。

7.最後に

優れた起業家がとる行動論理・プロセスである「エフェクチュエーション」の5つの原則をご覧になりいかがでしたでしょうか。ご自分なりにアレンジしながら、施策を活用することで、ご自分のものにしていただけるのではないかと考えております。予測できない様々な変化がある中、定期的に振り返ることで行動様式として定着していくのではないかと考えております。もちろん、私も実践してまいりますので、どこかでお話する機会があればとても嬉しいです。

参考文献
サラス・サラスバシー(著), 加護野 忠男 (翻訳), 高瀬 進 (翻訳), 吉田 満梨 (翻訳) 「エフェクチュエーション、市場創造の実効理論」 碩学舎 2015
アレックス・オスターワルダー (著), イヴ・ピニュール (著), 小山 龍介 (翻訳)「ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書」翔泳社 2012

略歴
■藤田 有貴子
ふじたクリエイトスタジオ代表 中央支部国際部 副部長
中小企業診断士 国家資格キャリアコンサルタント 認定経営革新等支援機関
シンクタンクで実証実験からNPO法人の立ち上げ、ウェブサービス等で事業企画、マーケティング、補助金を活用した新規事業立ち上げ、中小企業人材確保支援委託事業事務局、スタートアップ企業を経てフリーランスとして公的支援機関専門家、キャリアコンサルティング、ファンドレイジングや人材などのリソース調達支援で活動
自称、誰にも理解されないくらい新しい感性やアート関係の事業及び新しい時代を生きるパラレルキャリアにむけた壁打ちや翻訳を得意とする。