専門家コラム「オンライン展示会の特徴と有効活用するためのポイント」(2022年4月)
展示会といえば会場開催が当たり前でしたが、コロナ禍によりオンライン展示会という新たな形式が浸透しつつあります。中小企業にとっても展示会は新たな顧客開拓を行うための重要な手段であり、オンライン展示会を一度は検討したという企業も増えてきているのではないでしょうか。
そこで、本コラムでは、オンライン展示会の活用について考えていきたいと思います。
■展示会開催形式ごとの特徴
展示会の開催形式として、リアル展示会、オンライン展示会、ハイブリッド展示会の3種類に大きく分けることができます。各展示会の特徴は以下のとおりです。
・リアル展示会
会場で開催される展示会。
出展者が製品・サービスを来場者に直接見せて体験してもらうことができ、顧客の反応を直に確認できる点がリアル展示会の最大の魅力です。通りかかった来場者を呼び込み製品を紹介するなど、プッシュ型営業を行うことができます。
一方、出展料、展示装飾を行うための設営費、カタログやノベルティなどの配布物制作費など大きなコストと手間が発生するほか、開期中にブースで対応する人員の確保が必要となります。また、開催時期や場所によって来場者が限定されることや、天候や災害により開催が中止になるリスクもある点もデメリットとして考えられます。
・オンライン展示会
オンライン上で開催される展示会で、Web展示会、バーチャル展示会と呼ばれることもあります。出展者は、写真、動画、カタログなどのコンテンツをweb上の自社ブースに展示し、来場者に自由に閲覧・ダウンロードしてもらう仕組みです。名刺交換やチャット、ビデオ通話などの機能を備えている展示会であれば、オンライン上で来場者とコミュニケーションを図ることも可能です。
オンライン展示会の魅力は、webサイトにアクセスするだけでよいため、来場のハードルが低く、全国各地から幅広い顧客層の集客が見込める点です。また、リアル展示会よりも出展料が安く、中には無料で出展できるオンライン展示会もあります。コンテンツさえあれば、主催者のマニュアルに従ってweb上で展示の設定を行うだけで自社ブースが完成するため、基本的には出展準備の手間はそれほどかかりません。会期中も来場者対応はweb上で行うため、人員確保の負担が少ない点や、天候や災害の影響を受けにくい点もメリットとして挙げられます。
一方、気軽に来場できる分、それほど熱量のある顧客ばかりではなく、すぐに商談につながらないことも多いと想定されます。また、リアル展示会のように自社ブースに呼び込み商談を仕掛けていくことが難しく、基本的にはブースへのアクセスを待つ形となるため、プル型の営業となります。
・ハイブリッド展示会
リアル展示会とオンライン展示会を同時期に開催する展示会。
リアル・オンラインの双方のメリットを享受できる点が最大のメリットです。双方への出展を基本と位置付けている展示会が多いですが、いずれか一方のみの出展を認めているものもあります。
■オンライン展示会を有効活用するためのポイント
リアル展示会とオンライン展示会はそれぞれ特徴が異なるため、従来のリアル展示会と同じ成果を求めてオンライン展示会に出展しても期待外れとなってしまう可能性があります。そこで、オンライン展示会の特徴を踏まえたうえで、有効活用するためのポイントを挙げていきます。
・リードナーチャリングの実施
オンライン展示会は、多くのリード(見込み客)のデータ(属性やメールアドレス等)を獲得できる点が最大の魅力です。リアル展示会に足を運ぶほど熱心に検討している顧客ばかりではないかもしれませんが、自社ブースにアクセスしたということは関心を持っているということであり、こうした見込み客を育てていくこと、つまりリードナーチャリングが非常に重要となります。具体的には、メルマガ、セミナー、SNS、自社メディアなどを活用して、リードに定期的にアプローチし、比較・検討時に自社を候補にあげてもらえるようにすることが求められます。そのためには、オンライン展示会に出展する際には、出展後にどのようにリードナーチャリングを行うのかあらかじめ検討しておくことが必須となります。
・コンテンツの工夫
自社ブースには、説明文、写真、カタログ、動画などを掲載するのが一般的です。来場者に直に話しかけることができない分、これらのコンテンツを通じて来場者の興味関心をいかに惹きつけるかが鍵となります。製品・サービスの特徴が伝わるキャッチコピーや説明文になっているか、ダウンロード資料や動画のサムネイルは中身が伝わるものになっているか、など客観的な視点で自社ブースを確認していくことが重要です。また、業界の初心者向けコンテンツ、精通者向けのコンテンツなど、想定される来場者の層ごとにコンテンツを用意し動線を明確にしておくのも有効です。さらに、会期中も自社ブースを修正できるため、会期中のアクセス数をみながらコンテンツを改善していくことも可能です。
・自社ブースへの誘導
いかに自社ブースに誘導し、多くのリードを獲得するかが大きな課題となります。リアル展示会と同様に、オンライン展示会に出展する旨を様々な方法でPRする必要があります。来場を促すために、初公開、限定公開、来場者特典などの要素を検討するのも一つです。
また、来場者が自社ブースにたどり着くまでの動線(検索キーワード、絞り込み機能、バナー一覧など)を把握し、自社のコンテンツに反映する、出展内容が一目でわかるようにしたり目立たせたりするなどバナーデザインを工夫する、といった取組も検討するとよいでしょう。
・機能の事前確認
一言でオンライン展示会といっても展示会ごとにシステムの仕様は大きく異なるため、当然あると思っていた機能が実はなかったということがないよう事前に確認しておく必要があります。特に、取得可能な顧客データの範囲は、リードナーチャリングを行う上でも重要です。滞留時間や閲覧したコンテンツなど詳細なデータが取得できれば、興味関心の度合いの高い顧客を絞り込み、優先順位を上げてフォローを行うことが可能となります。
■まとめ
オンライン展示会は、直接来場者の様子を見ることができないため、単に出展しただけでは目に見える成果を実感しにくいかもしれません。そのため、オンライン展示会の特徴を理解し対策をしたうえで出展することが重要です。リードナーチャリングやコンテンツ制作に力を入れている、または取り組んでいきたい、という企業にとって、オンライン展示会への出展は相性が良いと考えられます。主催者側の動向を注視しつつ、オンライン展示会を顧客開拓に役立てていただきたいと思います。
●略歴
清水 美里
中小企業診断士
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会中央支部 執行委員/ビジネス創造部 副部長