専門家コラム「ブルー・オーシャン戦略のソリューション営業への活用」(2015年9月)
競争の激しい市場(現状)を「レッド・オーシャン(血の海)」と言い、競争のない市場を「ブルー・オーシャン(競争のいない未開拓市場)」と言う。このブルー・オーシャン戦略は競争のない市場開拓のために提唱されたビジネスモデル構築の戦略であるが、この考え方を日々の商談・提案活動の中でバリュー・イノベーション(差別化と低コスト化の同時実現)の考え方を活用することで、圧倒的優位に商談獲得できることをご提案致します。
1.ブルー・オーシャン戦略とは
ブルー・オーシャン戦略はフランスのビジネス・スクールINSEAD(1957年にフランスで創設された大学院ビジネス・スクール)で経営戦略論を教えるW・チャン・キム(韓国)とレナ・モボルニュ(アメリカ)により2004年10月号の「ハーバード・ビネス・レビュー」で発表され、2005年に出版されたビジネスモデル構築の戦略論です。
1)レッド・オーシャンでの戦略
競争に主軸を置いた戦略として良く知られているのが、マイケル・E・ポーターの「競争の戦略」におけるファイブ・フォース(業者間の競争・新規参入の脅威・代替品の脅威・売り手の競争力・買い手の競争力)に対する業界全体での「差別化」「コスト・リーダーシップ」、特定セグメントでの「集中化」の考え方です。他社との違いによる優位性を示す「差別化」はコモデティ化(一般化し特徴がなくなる)が進む中で顧客が選択する大きな要素です。また、他社より低コストで提供する「コスト・リーダーシップ」は最終選択に大きな影響を及ぼします。これらを限られた業界の特定セグメントで行うのが「集中化」です。
マーケティングに於いては、R(調査・分析)⇒STP(セグメンテーション/市場の細分化・ターゲティング/対象の絞込み・ポジショニング/製品の位地付け)⇒MM(マーケティング・ミックス4P、プロダクト・プライス・プレイス・プロモーション)と進め、実施しPDCAを行っていきます。
今ある市場に対してセグメンテーションを行い、自社の製品にふさわしいターゲットを選び出し、製品のポジショニングを決定します。これが今あるレッド・オーシャン(競争の世界)での戦略です。
2)ブルー・オーシャン戦略の考え方
ブルー・オーシャン戦略ではポーターの「競争の戦略」の差別化・低コスト化は別々のものではなく同時に達成する「バリュー・イノベーション」を目指します。ファイブ・フォースに於いても競争のない新たな市場では競争要因を探すことはできません。また、マーケティングに於いてもセグメンテーシュン重視ではなく、脱セグメンテーションを目指しています。
このようにブルー・オーシャン戦略の考え方は、レッド・オーシャンでの戦略と大きく違っています。
ではどのように行っていくのか、全てをこのコラムでは到底言い切れませんが、ブルー・オーシャン戦略の概要と商談獲得に活かせるポイントを次に示させて頂きます。
2.ブルー・オーシャン戦略の概要
ブルー・オーシャン戦略の流れを簡単に説明しますと
まず現状の分析と理解を「戦略キャンパス」を使って行い、次に戦略の方向性の策定のために非顧客(買い手になっていない顧客)に目を向けることと、「6つのパス」により市場の境界の引き直しを行います。さらに戦略を具体化するために、4つのアクションの実践を「4つのアクションツール」により進めて行きます。そしてその後にフィードバックを行い、最終的にバリュー・イノベーション(差別化と低コスト化の同時実現)により目指すビジネスモデルの構築を行います。
次に各ツールの内容について説明します。
1)戦略キャンパスとは
ブルー・オーシャン戦略での現状分析や他社の状況把握の作業に「戦略キャンパス」と呼ぶ独自のツールを使用します。その業界あるいは対抗するベンダーの特徴を認識するためのツールとして横軸に各社の特徴となる要素を上げていきます。そして縦軸には各要素について顧客が得る価値の度合いを数値化し高低を示します。
戦略キャンパス例
業務開発に於ける戦略キャンパス
横軸に競合するベンダー(Aの価値曲線)の特徴となる要素を上げ、そして縦軸には各要素について顧客が得る価値の度合いを数値化し高低を示しています。
次に自社(Bの価値曲線)の特徴を戦略キャンパスにプロットし、分析を行います。これにより買い手の価値への違いが明確になり、これがブルー・オーシャン戦略を推進する第一歩になります。
2)非顧客+6つのパスとは
新市場を創造する2つの方法として、1つは、あらゆる点に於いて新たな市場を創造する方向がありますが、リスクも難度も大きくなります。もう1つは、市場を定義している価値を見直し、市場の境界を引き直す方向です。(例えば、小売業でのコンビニエンスストア、スーパーマーケット等)
ブルー・オーシャン戦略では、市場の境界を引き直すという点に注力しています。そして再定義した市場で、バリュー・イノベーション(差別化と低コスト化の両立)を引き起こそうと考えます。そのための具体的な手法が非顧客+6つのパスです。
非顧客(顧客になっていない買い手)に目を向けることで、既存の枠組みをいったん取り払って(脱セグメンテーション)、買い手を見直す機会となり、市場の境界を引き直すことが可能となります。
「6つのパス」も市場の境界を引き直すためのツールです。
①代替産業に学ぶ
自分が属する業界ではなく、代替品を提供する業界に注目する。
②業界内の他の戦略グループに学ぶ。
(戦略的特徴を軸にして業界内の企業をグループ化したもの)
買い手はどのような点を判断材料にして戦略グループの間を移動しているのかを考察します。
③買い手グループに目を向ける。
購入意思を決定する色々な事業者(小売店・買い手・利用者・買い手に影響を与える人等)
に注目して市場の境界を引き直す。
④補完材や補完サービスを見渡す。
1つの製品やサービスはそれだけでは機能せず、別の材料やサービスが必要となります。
よって補完材や補完サービスに目を向けることにより買い手が必要とするソリューションが見えて
きます。
⑤機能志向と感性志向を切り替える。
機能志向から感性思考に切り替えると、差別化要因が強くなります。逆に、機能志向に切り替える
と不要な要素を削除し、低コスト化が図れます。
⑥将来を見通す。
将来を見通してトレンドを予測する。特に後戻りすることのないトレンド(すでに起こった未来)に注目
する。例えば確実に少子高齢化が進むなどは大きなトレンドの1つです。
3)4つのアクションとは⇒「差別化」と「低コスト化」の双方を実現するためのツールです。
製品やサービスから、次の4点について検討し実行します。
①Eliminate⇒全てを取り除く要素は何か
②Reduce⇒大胆に減らす要素は何か
③Raise⇒大胆に増やす要素は何か
④Create⇒新たに付け加える要素は何か
これら4つの頭文字を取ってERRC(エルック)と覚えて下さい。
・「取り除く」と「減らす」により低コスト化を図る。
製品やサービスを提供する側が顧客にとって重要だと考えているものが、買い手にとってはそれほど重要ではない場合がありうる。そのような点に着目し、全てを取り除く、または大胆に減らすことで大幅なコスト削減を行う。
・「増やす」と「付け加える」により差別化を図る。
買い手の要望を理解し、真に求めるものを大幅に増やし、また新たに付け加えることで他社との差別化を行う。
この4つのアクションを行うことで、差別化と低コスト化を同時に行うことにより、バリュー・イノベーションの実現を行う。
アクション・マトリックス例
自社の提案に於けるアクション・マトリックス
ポーターの「競争の戦略」では、基本的に差別化と低コスト化は両立しないと考えられてきました。よってどちらかの戦略を選択する必要がありました。
しかし、この4つのアクションによれば差別化と低コスト化は両立し、バリュー・イノベーションが実現できます。これを「戦略キャンパス」に反映し、競合他社に対し圧倒的優位に商談推進を行います。
3.まとめ
いままで述べました「戦略キャンパス」、「6つのパス」、「4つのアクション」により買い手・顧客にとっての価値を他社と比較しバリュー・イノベーションにより圧倒的優位に戦略キャンパスでの価値曲線を描くことで、顧客のメリットを最大限に拡大し、優位に商談獲得が行えると考えます。
ブルー・オーシャン戦略はまだまだ一部しかご紹介出来ておりませんが、ビジネスモデルの構築までに至らなくても、我々が日々経験する商談の方向性の検討段階で、「戦略キャンパス」、「6つのパス」、「4つのアクション」を活用することで、商談検討に深さが加わり、獲得商談の確率も向上すると確信しております。是非とも「ブルー・オーシャン戦略」の理解を深め活用して頂ければと思います。
参考文献
「ブルー・オーシャン戦略」:W・チャン・キム、レネ・モボルニュ著(ランダムハウス講談社刊)
「チャン・キムとモボルニュのブルー・オーシャン戦略がわかる本」(秀和システム)
■仲 羊一(なか よういち)
IT上場企業役員、中小企業診断士。
30年以上の営業経験を持ち「組織活性化による継続的な業績向上」、「顧客視点でのバリュー・イノベーション提案による商談獲得」「目標達成のための営業プロセスの実践」等を得意分野とする。