1.2代目社長が抱える問題点
 経営者との相談は大きく2つに分かれ、(1)経営資源である「人」「組織」や「資金」にかかわる事。そして、(2)企業を持続可能な組織にするための「戦略」とその「実行」となります。この2つ共に悩みを持った経営者様の事例を紹介します。

事例:年商5億の建設業の2代目社長Aさん
 5年前に現会長(父)から会社を引継ぎ、社長就任後も経営革新計画を専門家と一緒に策定し経営活動に邁進してきました。会長の事業が続いている時は、東京五輪前の建設投資増に乗ることが出来て、引継時からの業績も維持してきました。しかし、社長が立てた経営革新計画が実現していない事に社長は将来に危機感を感じ、企業の将来像を明確にしたい、とのことで「中期経営計画」を策定するという事で私に相談が来ました。
 ヒアリングをすると「将来ビジョンと実現」の他に「ベテランが自分のいう事を聞いてくれない子尾がある」「自分の代で雇った若い社員は言われた事は素直に取り組むが、意思表示を示してくれない」と、従業員さんに対する悩みを強く持つことがわかりました。
 
 そこで私は、経営計画の実行にもかかわってくることから、
「ではなぜ、ベテランは自分のいう事を聞いてくれないのでしょうか」
「ではなぜ意思表示を示してくれないのでしょうか」
というように、表面上で問題だと思う事象の真因を、社長ご自身で明確にする支援に入ります。
 このなぜ~を繰り返すと「私がどれだけ苦労しているのか理解してくれない」という発言にたどり着きました。

 これは当たり前であると私は考えます。経営者が、業績や取引先・仕入先の状況や社会全体での貴社の立ち位置を見た上で社内を俯瞰する目線と、従業員さんが自分の業務という世界から見る目線では、見えてくるものが同じでも、見えてくるもの~考える事が出てくる付加情報が異なるからです。

 そして真因ではありません。従業員さんを主語にしていると真因にはたどり着かず、いくら計画を立てていても解決しません。経営者ご自身のことがわかっているのか?という事に着目頂く必要があります。

2.孫子に学ぶ自己理解の重要性
 「孫子・謀攻編」に「彼を知り己を知れば百戦殆からず」という格言があります。

 敵(あるいは従業員様)の実力や現状をしっかりと把握し、自分自身(企業あるいは社長ご自身)のことをよくわきまえて戦えば、なんど戦っても、勝つことができる。なにか問題を解決するときも、その内容を吟味し、自分の性質や力量を認識したうえで対処すれば、うまくいく、という事です。

 重要なのは、後半の自分の性質や力量を認識するという事。自社の課題に対して、他社や周辺環境、従業員に焦点を当てるだけではなく、自分がどのような性質を持って行動してきたのか、をよく振り返ることが大事である、という事です。

3.経営者の自己理解を促すために
 これまでの話から経営者も自己理解が必要であることが理解できたかと存じます。では、どのように行うかについて、案を提示いたします。

1)経営者が自らを見つめるために
 企業のトップリーダーであれば、「経営活動全般での他者とのかかわりでの成功と失敗」という尺度で数週間の体験から、まずどのような成功や失敗をしてきたのかに着目します。その際に経営の3要素の観点から考えるとわかりやすいかと存じます。
 ① 商品:自社商品やサービスを開発・製作する際の他者とのかかわり
 ② 顧客や関係者:クライアントや利害関係者とのかかわり
 ③ 従業員:自社組織・従業員とのかかわり

 自己理解とは最終的には、自分で今の状態を理解することが必要ですが、周りの方の目を通して自分を見つめなおすのも必要です。そして、外部コンサルタントや社労士等能力開発や組織開発の専門家に入ってもらい第三者の立場で従業員様から会社そのものの評価をしていただき、社長の在り方が他者からどう見ているのかをまとめて頂くのも助けになります。
 
3.自己理解の一例として
 さて、話は最初の2代目社長Aさんに戻ります。
 数週間での他者とのかかわりを傾向にまとめました。そして重要なのは、それがなぜなのか。行動や考え方の真因をみつけていき、今後の経営に生かすことが重要なことです。

 ○ 経営革新計画が実現していないのは、「新しい事を行う時に自分自身が少し躊躇する」という性質がこれまでの人生でも見られてきてこれが真因では。
 ○ 従業員の意見を大切、と思うあまり社長として下すべき決断を他者に依存しており、「いう事を聞かない」「自分の意見が出てこない」という減少となったのでは
 という真因が社長が明確にしたものです。

 私からは、これらの真因を出された方によく見られる経営者としての行動を述べました。
 ○ 経営方針について、自らの考えが出にくく、アドバイスに左右されやすい。
 ○ 周りの意見を聞くことに抵抗はなく、従業員や幹部の経営参加意識は醸成しやすい。
 ○ しかし経営判断に明快さを欠くため、従業員の中には何をすればいいかわからず、頼りない、自分で思いのままにやっていいとみる人もいる。

 そしてこうした傾向は、本来であれば従業員からもヒアリングしたうえで総合的に社長に理解いただくものです。

4.まとめ
 大切なのは、常日頃から自分がどのような傾向があり、それが会社の在り方や従業員にどのように影響しているのか、自己を理解し続けることです。
 重ねて申し上げますが「会社は社長の普段の考え方や行動を映す鏡」であり、皆様トップリーダーご自身の企業経営のスタンスが経営活動や業績そのものにも長期的には反映するものである、と私は強く感じます。

参考文献:9タイプ・コーチング、(社)日本コミュニケーション協会監修 安村明史

【略歴】
 加賀城 剛史(かがじょう たけし)
 合同会社フェニックス経営研究所 代表社員
 中小企業診断士 認定経営革新等支援機関
 2013年診断士登録
 中央支部研修部長

 新卒後、建設コンサルタント企業で20年余りののち独立。
 従業員50名以内の建設業・製造業をメインに企業支援を行う。
 創業支援を事業の柱の一つにする。