1.中小企業を取り巻くDX化の現状
 2018年9月にDX(デジタルトランスフォーメーション)レポートが発表され、「2025年の崖」として、レガシーシステムの計画的な刷新の必要性とデジタル技術を前提とした企業経営の変革の方向性を提示しました。そして、新型コロナウイルス感染症の流行により、規模を問わず企業活動に多大な影響を受けています。この危機的な状況を乗り越え、企業が事業を継続していくため、財務基盤や収益構造の再構築が求められます。従来のような人とのコミュニケーションが制限されるなか、事業基盤の再構築を行うため、IT技術を活用したデジタル化を推進することの重要性の認識が高まってきています。
 そのような状況において、2020年12月に発表されたDXレポート2(中間とりまとめ)では、次の4つの分野でDXを推進することを提示しています。

 (1) 業務環境のオンライン化 : 業務をオンラインで実施できるITインフラを導入する。
 (2) 業務プロセスのデジタル化 : 各個別業務をオンラインで実施できるように電子化やプロセスの見直しを行う。
 (3) 従業員の安全・健康管理のデジタル化 : 従業員の安全・健康管理を遠隔で実施する。
 (4) 顧客接点のデジタル化 : 顧客に対して自社の製品・サービスを提供する場面だけでなく、広告、提案、アフターサービスを通じてオンライン化する。

 このようなDX化推進するIT技術として、中小企業共通EDIがあります。

2.中小企業共通EDIとは
 従来、多くの中小企業における受発注業務は、電話やFAXで行うか、大企業が指定するシステムを利用して行っています。電話やFAXで注文を受けた場合、自社の業務システムに手動で入力します。そのため、入力ミスが発生し、ミスを防ぐために、二重・三重のチェックを行う。紙の注文書の管理を行う、突合・消込作業を行うなど、膨大な業務負荷がかかっていました。
 中小企業共通EDIとは、こうした紙をベースに行っていた非効率な受発注業務を、Electronic Data Interchange(EDI:電子データ交換)という仕組みに置き換えるための基盤となります。EDI自体は昔から大企業を中心に利用されてきた技術です。しかし、EDIを導入するためには注文書をやり取りする相手が必要で、利用する相手ごとに注文書でやり取りする項目が異なるため、処理するデータ件数が多くないとEDIシステムを利用する効果が得られません。そのため、大企業を中心に利用されていました。このような背景から中小企業間の受発注業務はFAX利用が全面的に継続したままとなっていました。
 中小企業共通EDIの構成は次のとおりとなります。
 ① 共通EDI対応業務アプリケーション : EDIによる受発注が可能な業務アプリケーション
 ② 共通EDIメッセージ : 中小企業取引に必要最小限な情報項目
 ③ 共通EDIプロバイダサービス : 共通EDIメッセージをやり取りするネットワーク

PIC

出典:NPO法人ITコーディネータ協会「中小企業共通EDIのご紹介」

 中小企業共通EDIは、自社の業務アプリからも、データを紐づけたり、フォーマット変換したりすることにより、容易に接続できる仕組みを提供します。そして、メールのように多対多の企業間で情報を送達する仕組みを、クラウドで提供することにより、低コストでサービスを活用できるため、テレワークの推進にも有効です。

3.中小企業共通EDIを活用することのメリット
中小企業共通EDIにより、取引先ごとに用意していた専門端末が不要となり、自社のシステムからEDIデータをやり取りすることができます。そして、FAXで注文書をやり取りするための用紙が不要となり、注文書などのデータをシステムで管理することで、①業務効率アップでコスト削減②人的ミスを軽減③過去現在の取引データの検索の簡素化を実現できます。

4.中小企業共通EDI導入のために
 中小企業共通EDIを利用するためには、共通EDIプロバイダと契約し、共通EDI対応の業務アプリケーションを導入することで可能となります。中小企業共通EDIを構成し、中小企業共通EDIプロバイダ、および業務アプリが中小企業共通EDI標準を実装し、相互連携性サービスを提供していることを確認に対応した製品・サービスの拡充を図るために、「中小企業共通EDI認証制度」を導入しました。この認証制度により、中小企業は安心して選定、利用することができるようになります。
 また、自社だけで中小企業共通EDI導入を進めることが心配という企業向けに「共通EDI推進サポータ」による支援もあります。「共通EDI推進サポータ」は、平成29年度中小企業庁事業の成果である「中小企業商流・金流EDIコーディネータ導入支援者育成カリキュラム」に基づき育成された共通EDIの専門家となりますので、中小企業共通EDI導入にご活用ください。

中小企業共通EDIポータルサイト:https://www.edi.itc.or.jp/

略歴
遠藤孔仁(えんどうこうじ)
中小企業診断士・ITコーディネーター
東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員