小林 ますみ

1. 知的財産権の概要 
 中小企業にとって知的財産権の活用が重要とうたわれて久しいが、まだなお、中小企業には知的財産権というと手が届かない、難しいと感じられているようである。今更ながらの感はあるが、まず、最初に知的財産権の概要を整理しておく。知的財産権は下記のように分類される。
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 このうち、産業財産権は申請、登録することによって保護される権利である。特に商標権は、中小企業者が権利として得ることが比較的容易であり、しかも更新をすることによって、半永久的に権利化できる唯一の権利である。 以下、商標権について掘り下げてみよう。

2. 商標権の重要さ
 いわゆる「ブランド」という概念を権利化するものというとわかりやすい。ブランドとは「刻印」を意味する語で、その出所を表す大切なものである。今までの私の経験では、「ブランド」というと、すなわち「有名ブランド」ということで自分たちには関係のないもの、遠い存在のものととらえている人が大半である。それは大きな間違いである。中小企業にとって、他に真似のできないもの、価値のあるものを作り出すことは大変大切なことだが、それを権利化することがとても重要なことだ。最終製品につくブランドのみではない、部品、農作物、水産物、サービス、なんでもゆるぎない価値を創造できたときには、まず、ブランド化を考え、そのブランドを育てるために、土を耕し、水をやり、歌を歌って聞かせ、大事に大事に育てることが肝要である。そしてそのブランドを権利化するのが、商標権である。
 マーケットがますますグローバル化していく中で、商標権を取るのは世界の各国にわたり必要となってくる。マドリッドプロトコルという制度により、国際的な商標権登録は簡便な手続きでできる。先に述べたように商標権は更新という制度をもって、半永久的に権利化できる大変強い権利である。特許や、実用新案は期限がきたら、(特許:出願から20年、実用新案:出願から10年、意匠権:登録から20年)それは自分だけのものではなくなる。それらはとても使用価値のあるものだから、ある期間、創作者としての利益を享受できたら、あとはみなさんに公開してみなさんで使用できるようにしましょう。というたぐいのものである。それに比べて商標権は自分が育ててきた付加価値を10年ごとに更新することにより、半永久的に自分の権利とできるものなのである。
 付加価値を創造することが、大変な武器になる中小企業にとって、商標権の権利化は避けてはならない重要な戦略となる。平成27年4月からは、色の組み合わせや音にも商標登録が認められ国際的な標準に合わせていこうという傾向が強まっている。また、さきごろ政府が 「38か国商標法に関するシンガポール条約」 に参加する見通しとの発表をしたが、日本が参加することによりASEAN諸国も追随するとみられ、世界的に国際的登録が簡潔化される傾向がある、この条約に加盟すれば,外国における商標出願をさらにより簡単に行うことができ,当該国の代理人を選任する必要がなくなることにより出願費用を大幅に抑えることできる。国内企業のメリットは大変大きい。

3. 費用
 それでは、今のところは、いったいどれぐらいの費用が商標権を獲得するために必要となるのだろうか。
 商標権は、一つの類(商品群、例えば、衣類、靴などは一つの類、国際分類で45分類に分けられる)で登録するが、登録の前に、調査、出願などが必要となってくる。日本においては、調査をかけ、出願をし、登録となるためにおおよそ、一つの類(区分)で10万円から15万円ほどの費用がかかる。また、同一の商標を他の国でも活用したい、あるいは、生産する(商標権は生産する場合にも関係してくる)場合は、それぞれの国の登録費用がかかる。最近は特許庁のHPから、国際出願の方法など詳しく述べられているので是非活用したい。便利で安価なのは現在のところ先にのべたマドリッドプロトコルを利用する国際出願である。これもHPがかなり整備されており、国により、いくつの類で出願するかにより、簡単な入力で費用がシミュレーションされるようになっている。 
 例えば、ある一つの商標を二つの区分(たとえば、一つは衣料品や靴、もう一つは化粧品など)にマドリッドプロトコルを通じて、米国、中国に出願、登録をするとすれば、費用は1,629スイスフラン(約20万円)ということになる。

4. 検索方法 
 自分の登録したい商標が登録可能かどうか、簡単に調査する方法もある。平成27年4月から特許庁ホームページが改正され、簡単により多くのことが検索できるようになった。初めての利用者にも分かりやすく説明があるので、これらを活用するのは非常に有効である。ただし、これは日本国内のみである。グローバルに国際出願する際は、その国々での類似商標があるかないかの調査などをかけることになるが、専門家への相談が必須となろう。東京都では、知的財産総合センターが、中小企業に対して手厚いサービスを行ってくれているので、ぜひ活用したい。

参考ホームページ
特許庁:https://www.jpo.go.jp/sesaku/sesaku/ipdl/index.html
WIPO(マドリッドプロトコル):https://www.jpo.go.jp/seido/s_shouhyou/mado.htm
東京都知的財産総合センター:http://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/

■小林 ますみ(こばやし ますみ) 
中小企業診断士
(一社)東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員
主な専門分野、ブランドマーケティング