専門家コラム「新型コロナに負けない資金繰り対策」(2021年1月)
(1)そもそも資金繰りって何?
令和2年は新型コロナ感染症の拡大により、規模の大小を問わず未曽有の困難に直面した企業が少なくありませんでした。令和3年は少しでも状況が改善することを祈るばかりです。本稿では企業の血液とも言われる資金を管理する資金繰りについて説明したいと思います。
資金繰りとは、経費などの支払いに対応できるよう会社に入ってくるお金と出ていくお金の管理を行い資金の流れをコントロールしていくことを指します。しかし、資金繰りという言葉は人によって捉え方が異なることがあります。例えば、「倒産ギリギリの会社が資金をどうにかすること」であったり、「銀行と交渉すること」であったりと、人によって様々です。
資金繰りに関しては、大企業であれば財務部門が担当していますが、中小企業のほとんどは、経営者である社長が行っています。「今はお金があるので資金繰りなんて資金があれば関係ない」と「資金繰り」について普段からあまり深く考えない場合も多くあります。
しかし、実際は、大手でも資金繰りの失敗により倒産の危機に陥ることもあるため、今、資金があるからといって資金繰りを無視してよいわけではありません。ましてやコロナの影響で前年並みの売上の確保すら危ぶまれる企業がほとんどである今、資金繰りについてしっかりと対策を講じておくことが重要です。会計事務所職員であれば、担当企業の資金繰りについて把握しておく必要があります。
なぜなら、資金繰りは、企業が存続できるかどうかに大きく関わってくるからです。「勘定合って銭足らず」や「黒字倒産」という言葉が示すように、企業の損益状況と倒産可能性は別物と考えた方が良いでしょう。
毎期赤字を垂れ流している企業でも、赤字分をそのまま融資してくれる銀行があれば会社が行き詰まることはありません。反対に資金繰りが一時的にでもショート(不足)すれば、倒産の危機に陥ります。この意味においては、売上・マーケティングの問題より、資金繰りの問題の方が大切でもあります。
(2)資金繰り表ってどうやって作成するの?
B/SやP/Lと違って資金繰り表は作成の義務はありませんので、作り方がわからないという声をよく聞きます。しかし、未来のお金の流れを把握するためにはとても有用ですので、ぜひマスターしてください。金融機関によっては融資の際に資金繰り表の提出を求められることもあります。資金繰り表も作っていない、ずさんな管理しかできないような企業の融資申込は受け付けないというスタンスです。融資の際に慌てないように普段から作成しておくようにしてください。
資金繰り表は作成義務がありません。融資の際金融機関が提出を求めることはありますが、基本的に内部資料なので、その企業にとって使いやすいフォームになっていればよいのです。
資金繰り表の大きな特徴は、「予定」と「実績」を記入していくという点です。未来のお金の流れを把握するといっても100%予測通りということはありません。予実に差異が生じたら修正を加えてその先を考えるという作業が必要になります。資金繰り表はそのためのツールということになります。
(3)資金繰り対策はどのようにするの?
さて、資金繰り表が完成したとして、最後に具体的な使い方についてみていきます。まず、次月以降の予定欄で、「翌月へ繰越」がマイナスになっている月がないか確認しましょう。もしあったとしたら、その月に資金不足に陥る可能性があるということですので対策を考える必要があります。
このように資金繰り表を作成することにより、直近になってからではなく、ある程度時間のある段階でアラームが鳴る仕組みがあれば、余裕をもって対策が打てます。また、せっかく資金不足の可能性を早期発見できたのですからすぐに対策を考えるべきです。資金繰り対策は時間があればあるほど容易であることは言うまでもありません。
資金繰りが悪化してきた場合は、まず悪化の原因を探ることから始めます。資金繰り悪化の原因はさまざまな要因がありますが、 やはり売上の減少が最大の要因です。資金繰り悪化要因を取り除き元の状態に戻せたならば、無事資金繰りが改善することになります。ただし言うは易しで、売上を回復させると言っても、そもそも売上が減少するには何らかの根本原因があるはずです。そこにメスを入れまずは本業の立て直しを考えることがスタートになることでしょう。
本業の立て直しは時間がかかるケースもあります。しかし資金繰りは待ってくれません。期日に支払える額を確保するためには、以下のような資金繰り対策を検討してみるとよいでしょう。
1.対金融機関
① 公的融資制度利用
日本政策金融公庫からの融資と、信用保証協会付融資(制度融資)を指します。低金利で長期・固定で借り入れが出来るので、資金繰り的にも非常に有利な融資制度です。
② リスケジュール
既に金融機関との付き合いがある場合、返済金額がきつくて資金繰りが悪化しているケースがあります。そのような場合には金融機関と交渉し、月額返済額を減らす、或いはゼロにする必要があります。
2.対取引先
① 買掛金等の支払を待ってもらう、手形をジャンプする
支払いを先延ばしにしてくれる取引先があれば交渉してみましょう。支払を待ってもらうことにより、手もとに現金を残します。ただし、それなりのリスクが伴いますので、十分に注意が必要です。これまで取引実績や信頼関係の構築出来てなかった場合、単なる信用不安を誘発することになってしまいます。もちろん回収が遅れている売掛金、受取手形の早期回収も並行して行います。
3.内部でできる改善
① 在庫の削減
余分な在庫を持たないようにすることで、支出を抑えることができます。
② 経費の削減をする
役員報酬や社員の給与、光熱費などの経費を削減します。
いずれにしても、なるべく早く着手し時間的余裕をもって対策を講じることが肝心です。
現在はコロナの影響で先の見通しが立ちにくくなっていますが、こんな時こそ資金繰り表を活用して企業の体質強化につなげていただきたいと思います。
●略歴
山根孝一(やまねこういち)
立命館大学法学部法律学科卒業
2002年中小企業診断士登録
2004年山根中小企業診断士事務所にて独立開業
東京都中小企業診断士協会中央支部 渉外部副部長
一般社団法人ちよだ中小企業経営支援協会 理事長
当ジャンルでの執筆
2016年度連載「こんな決算書どう分析しますか?」(株)近代セールス社『バンクビジネス』
2017年1月特集「資金繰りに着目した決算書の分析方法」(株)近代セールス社『バンクビジネス』
2017年度連載「決算分析の落とし穴」(株)近代セールス社『バンクビジネス』
2019年6月特集「良い・悪い状況を見極めるための財務分析」(株)近代セールス社『バンクビジネス』
2019年度連載「ここに注目!決算書の見方・聞き方」(株)近代セールス社『バンクビジネス』