Global Wind (グローバル・ウインド)
ヴェトナム視察のご報告

中央支部・国際部 末永 輝明

 9月に初めてヴェトナムを訪問しました。ASEANでは、インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポールには、出張や駐在の経験がありますが、ヴェトナムでの機会がなく是非訪問したかった国です。本日は、初めて同国を訪問した者の「素朴な感想」を、かつて駐在経験があるインドネシアの首都ジャカルタとの比較も交えて、お伝えしたいと思います。
 訪問したのはホーチミン市です。深夜に到着し市内に出て、先ず驚いたことは、街中にゴミ一つ落ちていないことでした。香港が「おもちゃ箱をひっくり返したような楽しい町」と評される一方、ジャカルタは「ゴミ箱をひっくり返したような不衛生な町」と評されています。ジャカルタをある程度イメージしていた者にとってホーチミン市の清潔さは、大変な驚きでした。
 次に驚いたのはオートバイの数の多さです。無数のオートバイが街中を走り回っています。接近して走っているのに衝突事故はほとんどないそうで、大した運転技術です。ヴェトナム政府は自動車メーカーを誘致したいようで高い関税を課していますが、既に隣国のタイに集積が出来上がっているため、ヴェトナム移転のメリットを自動車メーカーが見いだせず協力を得られていないのが現状のようです。早くからトヨタなどが進出し社用車や大衆車など自動車によるモータリゼーションが進んだインドネシアと大きな違いです。ヴェトナムの本格的な自動車によるモータリゼーションは、タイ・プラス・ワンが進展し、タイからの投資が拡大するのを待つしかなさそうです。一方、市内でのタクシー網の充実ぶりにも驚きました。新しく、快適、安全なタクシーが、市内どこにでも効率的な運んでくれます。ジャカルタでは、大半のタクシーがボロボロの中古車で、しかも、外国人が乗ってよいタクシー会社は2社しかありません。危険なのです。「タクシー強盗」なる強盗が出没し、知らない空き地で身ぐるみをはがれる事件が時々起ります。ホーチミン市は、治安の良さに加え、市内のレストランは安く、清潔で、すばらしくおいしく、バンコク以上に日本人が生活しやすいころ所、と感じました。
 今回は、日系の製造工場数か所と日系会計事務所、コンサル会社を訪問しました。話に聞いていたとおり、ヴェトナム人は極めて勤勉で、向上心旺盛です。特に女性が勤勉で、工場労働者の7割が女性だそうです。一方、勝ち気に過ぎ協調性に欠ける欠点があります。社会主義の伝統から労働組合の関与範囲の広い労働法制のためストライキ発生件数はASEANで最も多くなっています。
 また、ヴェトナム語は難しいときいていましたが、駐在7年目の人が、「歯が立たない」と言っているのを聞いて、想像を絶する難しさであることが分かりました。ために、ヴェトナムには500以上の日本語学校があり、母国語の干渉が強すぎて決してうまいとは言えませんが、コミュニケーションはとれているようです。
 訪問した一社は、日本の地方都市にある従業員30名規模の中小卸売業でしたが、川上の製造業を目指して3年前にホーチミン市内に製造工場を立ち上げました。ホーチミン市では、従業員250名規模の中堅工場となっています。日本人駐在員は3名で、経営全般、労務管理、財務管理、など全てをこなさなければなりません。工場立ち上げの際、多めの人員を採用してしまい、解雇せざるを得なくなってしまったようです。一時、紛糾しそうになったところ、ひとりひとりと時間をかけて話し合い、納得してもらえたとのことでした。ヴェトナム人はとにかく議論好きなのだそうです。この話を聞いて、日本政府の国際協力で、毎年ホーチミン市でビジネスマン研修をしている知人の話を思い出しました。教室を盛り上げようと、受講生一人に意見を言わせ、皆がその意見に対しどう思うか聞いたところ、ほぼ全員の手が一斉にあがるそうです。引っ込み思案な日本人とは正反対です。そして最初の発言者の意見とは、全く関係のない自分の意見をまくし立てるので収集がつかなくなってしまうそうです。
 海外現地法人管理の最重要ポイントは労務管理、異文化を理解してコミュニケーションを深められるかです。
 最終日に、半日、メコン川河口に観光に行きました。東南アジアの土壌は赤土のため、川は赤く染まっているのですが、近くで見ると、水がきれいで、「赤く濁っている」のでなく、「赤く澄んでいる」のです。素晴らしい自然だ、と思いました。
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   雄大なメコン川河口:水は濁っているように見えて実は、澄んでいるのです。
 海外での仕事で重要なことは「その国が好きになれるか?」だと常々思っています。その意味でたった3日の視察でしたが、ヴェトナムは「大好き」になりました。良い仕事ができそうです。
 経産省が中小企業の海外進出支援に増々力を入れています。私も認定支援機関研修を受け、登録専門家になりました。海外進出に関心のある経営者様の伴走者として、キメ細かなハンズオン支援を提供していきたいと考えておりますので、是非お声掛けをお願い申し上げます。
末永 輝明(すえなが てるあき)
日米の投資銀行にて国際金融ビジネスに従事したのち、大手総合商社の金融事業部門にて十数年間企業投資業務に従事。海外駐在を含む国際経験と投資経験が豊富。2013年中小企業診断士登録。他に社会保険労務士と米国公認会計士の有資格者。